ぴかぐりさんの日記

(Web全体に公開)

2009年
10月09日
22:49

中国ルールと日本ルールの違いと歩み寄り

タグ : 囲碁のルール
ひとつ前の日記の最後に様々な歩み寄りルールについて説明しました。
この日記ではその中で通常の日本ルールに最も近い「日本式II’」
について説明することにします。

もとになった池田敏雄囲碁ルール試案については
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_menu.html
http://gobase.org/studying/rules/ikeda/
を見て下さい。

個人的には単純な「日本式I」を最も好きなのですが、
通常の日本ルールに愛着を持っている人たちにとっては
以下で説明する「日本式II’」が良いと思われます。

■ひとつ前の日記からの抜粋

日本囲碁規約に不満のある人は「日本式II’」を使うと良いかもしれません。
日本囲碁規約の記述はかなり曖昧であり、
その肝である第七条では終局に向けての死活確認で
通常の劫のルールをそのまま使ってはいけないとしている上に、
「盤上に生き残る石は活きており、盤上から打ち上げられる石は死んでいる」
という単純な基準で死活を判定するようになっていません。
その上、日本囲碁規約では、死活と地の確認で合意できないときに、
対局再開継続によって合理的に決着をつけることができません。
「日本式II’」ではこれらの欠点が解消されており、
珍形・奇形を除くほとんどの場合に日本囲碁規約と同じ結果を導きます。

■「日本式II’」(合意による終局を可能にしたバージョン)

解説:基本的に通常の日本ルールと同様に対局を進める。

1. 両対局者は交互に盤上の交点に石を打つ(着手)かパスを行なう。

2. 着手によって囲まれた石は盤上から取り上げられ、ハマとなる。
着手は取れる石をすべて盤上から取り上げたときに終了する。

3. 着手によって石を取れないとき、その着手によって打たれた石
自身が取られる形になってはいけない。

4. コウをすぐに取り返してはいけない(パスもコウ立てになる)。

5. 三手以上前の局面(盤上の石の配置のこと、手番は無関係)が再現された
場合には同形反復のあいだに打ち上げられた石の数が多い方を負けとする。
同じ個数の場合には引き分け(もしくは無勝負、再試合)とする。

解説:たとえば、三劫、長生、循環劫で同形反復が起こった場合には
引き分け(もしくは無勝負、再試合)となる。

6. 対局者双方のパスが連続したとき、対局を停止する。

解説:すなわち、パス、パスという手順で対局停止となる。

7. ただし、コウ取り、パス、パスという手順は禁止する。

解説:この規則の目的はコウをつがずに対局停止となることを防ぐこと
である。コウ取り、パス、パスという手順を許すと、
コウの取り跡のツギが省略されたまま対局停止となってしまう。
パスもコウ立てになるルールでは規則7を仮定するのが自然である。

8. 対局停止直後に、まず両対局者が
「終局手続きに進むか、対局を再開継続するか」を確認する。
両対局者の終局の意志が確認されたならば、
さらに「どの石が死石でどの石がセキか」について確認する。
双方の主張が一致したならば、
盤上から死石をすべて取り上げハマとした後に、
得点を計算して、双方がその結果を確認して、終局とする。
対局再開後の対局停止でかつその対局停止にいたる最後のパスを
最初の対局再開直後の手番の対局者が行なった場合には、
そのパスのペナルティとして渡されたハマを返却してから、
双方の得点を計算する。規則13(同数着手ルール)を参照せよ。
得点の計算法はセキの定義を除いて規則14と同様とする。
この場合を「合意による終局」と呼ぶ。

解説:最初の対局停止直後の「合意による終局」手続きでは
得点を「地の目数-同色のハマの石数」で計算することになる。
計算を通常の日本式整地法を使って行なうことができる。
この場合には通常の日本ルール(日本囲碁規約や慣習的な日本ルール)
とほとんど何も変わらない。パスもコウ立てになることの明確化や
コウ以外のすべての同形反復をルール化したことを除けば、
通常の日本ルールとほぼ完全に同じルールにだと考えられる。
ルールが本質的に異なるのは最初の対局停止のときに
「合意による終局」に失敗した場合である。
通常の日本ルールでは、死活確認で合意できないとき、
対局の継続で合理的に決着をつけることは不可能だが、
このルールでは以下で説明する規則で可能になる。

注意:「合意による終局」は合意の結果が両対局者にとって最善の選択で
あることを意味しない。死活やセキの判定で間違うことがありえる。
規則8は死活とセキの判定が誤っていたとしても両対局者の主張が
偶然一致してしまった場合には、その誤った判定をもとに得点を計算して
終局にすることを意味している。死活とセキの判定に自信がない部分が
ある場合には対局再開を要請するべきだろう。対局再開によって
すべてを合理的に決着を付けられることがこのルールの優れた点である。
得点計算に誤りがあったとしても、その結果を双方が確認して正しいと
認めて終局にしてしまったならば、その結果は正しいものとして扱われる。

例:「合意による終局」手続きは次のようになるだろう。
「パス」、「パス」、「終わりですね?」、「はい、終わりです」、
「この石とその石は死んでおり、あの部分はセキだと思います」、
「はい、この石とその石は死んでおり、あの部分はセキです」、
双方の主張が一致、双方が相手の死石を盤上から取り上げてハマとする、
整地、双方の得点を計算・確認して終局。

例:ネット碁における「合意による終局」手続きの例。
「パス」ボタンをクリック、相手も「パス」ボタンをクリック、
対局ソフト曰く「終局手続きに入りますか?対局再開を希望しますか?」、
「終局手続き」ボタンをクリック、相手も同様、
対局ソフト曰く「終局手続きに入ります」、
対局ソフトの盤面が死活とセキの確認モードに入る、
相手が死石とセキを確認している様子を表示する窓も開く、
対局ソフト曰く「死石を指定して下さい (指定した後にOKボタンを押す)」、
すべての死石をクリック、OKボタンをクリック、
セキの判定は自動化されている。
対局ソフト曰く「死石とセキの判定はこれで正しいですか?」、
相手の死石とセキの指定の仕方と自分の指定の仕方が同じことを確認、
Yesボタンをクリック、対局ソフトが自動的に得点を計算、終局。

9. 「合意による終局」に失敗したならば、対局を再開する。
ただし、対局停止にいたる最後のパスを行なった対局者の次の手番で
始まるものとする。

10. 最初の対局再開以後のパスには1目のペナルティが課される。
対局再開後にパスをするときには相手にハマを1つ渡さなければいけない。

解説:両対局者の棋力が十分高ければ、最初の対局停止になった局面では
双方に1目の損になる手しか残っていないはずである。
対局再開後に一方が1目損な手を打ち、もう一方がパスしたとき、
パスにペナルティを課していなければ、片方だけが損をしてしまう。
規則10の目的はこれを防ぐことである。対局再開後に両対局者は
一方的に損をしてしまうことを心配せずに
自分の地に手を入れることができる。
規則13(同数着手ルール)も参照せよ。

11. 対局再開後に対局者双方のパスが連続した場合にも、
対局を停止し、規則8の合意による終局手続きに再度したがう。

12. 対局再開直後に再度パスが連続したならば、
すなわちパスが4つ連続したならば、
最終局面における双方の得点を計算して終局とする。
この場合の終局を「完全終局」と呼び、
最初の対局再開から「完全終局」までの手順を
「完全打ち切り手順」(playout sequence)と呼び、
「完全終局」の局面を「完全終局図」と呼ぶ。
「完全終局」の場合における双方の得点計算方法は規則14で説明する。

解説:「完全終局図」とは、すべての死石が盤上から打ち上げられ、
二眼を持って活きることのできる石がすべて二眼を持つ状態になった
とみなせる局面のことである。

解説:双方の得点から実際にどのように勝敗を決定するか(コミなど)は
別に決めておく。置き碁のルールについても別に決めておく。

13. 「完全終局」にいたる最後のパスを
最初の対局再開直後の手番の対局者が行なった場合には、
そのパスのペナルティは免除される(同数着手ルール)。
すなわち、そのようなパスではハマを渡さない。

解説:この規則の目的は、
「完全打ち切り手順」で(最初の対局再開から完全終局のあいだに)
両対局者が盤上への着手を同じ回数行なうようにすることである。
対局再開後に着手は権利から原則義務に変わり、
対局再開から終局までに同じ回数の着手を行なうこととする
と考えた方がわかりやすいかもしれない。

14. 「完全終局」の場合には双方の得点を次の式で計算する:

 地の目数-同色のハマの石数-同色の無駄石の数

活石とは盤上に残っている石のことである。
セキとは相手の連続した着手によって打ち上げ可能な活石のことである。
セキ以外の同色の活石だけで囲まれた空点の全体を地と呼び、
地の空点の個数を地の目数と呼ぶ。
複数の色の活石で囲まれた空点の全体をダメと呼ぶ。
無駄石とは最初の対局再開以後に打たれた活石で
次のどちらかの条件を満たすもののことである:

(a) その活石から出発して最初の対局再開以後に打たれた活石だけ
をたどって別の色の活石もしくはダメにたどりつける。
(b) その活石はセキに含まれる。

注意:この規則はオリジナルの池田敏雄囲碁ルール試案「日本式II」の
対応する規則と条件(a)の分だけ異なる。その違いが原因で、
「日本式II」ではダメを詰め忘れたまま対局停止になると損をする
場合があるが(残されたダメの個数が奇数個の場合)、
「日本式II’」ではダメを詰め忘れても損をせずにすむ。
オリジナルの「日本式II」ではセキでない活石のみを活石と呼んでいる。

注意:パソコンを使えば「完全終局」での得点計算を完全に自動化できる。

解説:得点の定義式の最後の項(-同色の無駄石の数)は
(a)ダメおよび(b)セキの目や一方ダメ
が原因で得点に差がでないようにするために必要である。

解説:最初の対局停止の局面で、対局者双方の石の死活が明らかであり、
地の境界線も明確に定まっていて、ダメもすべて詰められているならば、
死石をハマとして打ち上げた後に双方の点数を

 地の目数-同色のハマの石数

で計算しても「自分の得点-相手の得点」が「完全終局図」と同じになる。
なぜならば、そのような場合には
最初の対局再開以後双方の可能な手がすべて1目の損になり、
同数着手ルール(規則13)によって
「完全打ち切り手順」における両対局者の損が等しくなるからである。
自分の地に着手すれば地を減らして1目の損、
相手の地に着手すればハマを増やして1目の損、
セキの目や一方ダメに着手すればセキ石が増えて1目の損(規則14(a))、
ダメに着手しても1目の損(規則14(b))であり、
パスをしても規則10によって1目の損になる。
規則9で定められた「合意による終局」手続きは
以上の考え方に基づいて行なわれることになる。

解説:十分な棋力の持ち主どうしが対局している場合には
ほとんどの場合に最初の対局停止で「合意による終局」に至るだろう。
たとえある石の死活で同意できずに対局を再開した場合であっても、
ある程度打ち進めて死活がはっきりした時点で対局停止にすれば
「合意による終局」が可能になる。
「完全終局図」まで打ち進めることはほとんどないだろう。

解説:対局停止直後の合意手続きにおいて、対局者双方は、
相手の主張に基づいた「自分の得点-相手の得点」が
自分が想定している「完全終局図」よりも小さくなる場合には、
相手の主張に同意せずに、対局再開を要請した方が良い。

例:次の局面で対局停止となったとする。

┌┬○●┬┐ アゲハマなし
├○○●●┤
├○┼┼●┤
├○┼┼●┤
├○┼┼●┤
└○┴┴●┘ 次は黒番

慣習的な日本ルールではダメを残したままで、
黒地7目、白地7目となり、持碁になる。
この結果は「日本式II’」では以下のように再現される。
仮に対局再開後に黒と白のそれぞれが◆■◇□を打ち、
次の局面で「完全終局」になったとする。

┌┬○●┬■ アゲハマ
├○○●●┤ 黒石2、白石2
├○◇◆●■
├○┼◆●┤
□○◇┼●┤
└○◇┴●┘

アゲハマは完全終局にいたる4連続パスのペナルティである。
この「完全終局図」でセキは存在しない。
◆3子は白石とダメに接しているので無駄石であり、
◇1子は黒石に接しているので無駄石であり、
◇2子はダメに接しているので無駄石である。
このようにダメを詰めるために打った石は無駄石になる。
そして、黒地5目、白地6目。
黒と白の得点は次のように計算される。

 黒の得点=黒地の目数-ハマの黒石の数-黒の無駄石の数=5-2-2=1
 白の得点=白地の目数-ハマの白石の数-白の無駄石の数=6-2-3=1

同点なので持碁になる。
「完全打ち切り手順」(対局再開から「完全終局」まで)の手は
どれも1目損な手になっている。
同数着手ルールによって黒と白は
「完全打ち切り手順」で同じだけ損をすることになる。
このことを理解していれば、対局停止の局面の時点で
「日本式II’」であっても持碁になることは明らかである。

例:次の局面で対局停止となったとする。

○┬○○┐ アゲハマなし
├○●○○
●●●○┤
├●●○○
●┴●●┘ 次は黒番

慣習的な日本ルールではダメ詰めと手入れを省略したままで
黒地2目、白地2目となり、持碁になる。
日本囲碁規約(1989)ではダメ詰めと手入れのあとに、
やはり、黒地2目、白地2目となり、持碁になる。
(その後、ダメ詰め手入れの後に対局停止して終局に
するように規定が改正されたようだが。)
しかし、「日本式II’」では黒が左上で白に手入れを強いる前に
対局停止にしてしまうと、1目損をしてしまうことになる。
その証明。仮に対局再開後に黒と白のそれぞれが◆■□を打ち、
次の局面で「完全終局」になったとする。

○□○○┐ アゲハマ
◆○●○○ 黒石1、白石2
●●●○┤
├●●○○
●┴●●◆

アゲハマは最後の白パスから始まる4連続パスのペナルティの分。
最後の黒パスのペナルティは免除されている。このとき

 黒の得点=黒地の目数-ハマの黒石の数-黒の無駄石の数=2-1-2=-1
 白の得点=白地の目数-ハマの白石の数-白の無駄石の数=2-2-0=0

白の1目勝ちである。このように「日本式II’」では
必要な手入れを強いる前に対局停止にしてしまうと損になる。
対局停止前のダメ詰め手入れに関して「日本式II’」は
完全なダメ詰め手入れを要求するルールと
ダメ詰め手入れをすべて省略可能とするルールの
中間に位置すると考えられる。
「日本式II’」では最初の対局停止前に必要な手入れを相手に
強制しておかないと損になってしまうので注意が必要。

■「日本式I’」(合意による終局を可能にしたバージョン)

「日本式I’」は「日本式II’」の規則8、14を
以下のより単純な規則8'、14'に変更したものである。

8'. 対局停止直後に、まず両対局者が
「この局面で終局にするつもりがあるか」を確認する。
両方の終局の意志が確認されたならば、
さらに「どの石が死石でどのダメが一方ダメか」について確認する。
(一方ダメとは一方だけが打つ権利のあるダメのことである。)
双方の主張が一致したならば、
盤上から死石をすべて取り上げハマとした後に、
得点を計算して、双方がその結果を確認して、終局とする。
得点は次の式で計算する:

 地の目数-同色のハマの石数

活石とは死石を取り上げた後に盤上に残っている石のことである。
同色の活石だけで囲まれた空点と一方ダメの全体を地と呼び、
地の空点の個数を地の目数と呼ぶ。
この場合を「合意による終局」と呼ぶ。

14'. 「完全終局」の場合には双方の得点を次の式で計算する:

 地の目数-同色のハマの石数

活石とは盤上に残っている石のことである。
同色の活石だけで囲まれた空点の全体を地と呼び、
地の空点の個数を地の目数と呼ぶ。

「日本式II’」の規則14が「日本式I’」よりも
ずっと複雑になってしまった理由は、セキの目を地とみなさず、
ダメ詰めも(ある程度)省略できるようにするためである。

■アイデアの出処

この日記で提案した「日本式II’」のほとんどの規則は
池田敏雄囲碁ルール試案の「日本式II」に等しい。
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_menu.html

「合意による終局」と「完全終局」(理論上の終局)の区別、
「合意による終局」で「死石をそのまま取り上げること」は
「打ち上げ手数の省略」に過ぎないこと、
「完全打ち切り手順」(死石の打ち上げ手順)で
片方が一方的に損をしてしまわないように
パスにペナルティ(非交互着手賃)を課すこと
などの基本的なアイデアはすべて貝瀬ルール(貝瀬漸進案)にある。
http://park6.wakwak.com/~igo/igorule/zansin.html
貝瀬ルールは先進的なアイデアで満ちており、
池田囲碁ルール試案はその発展形だと考えられる。

規則4、5、7を組み合わせるというアイデアは
Robert Jasiek さんの Ikeda rules with last-ko-capture-rule にある。
http://newsgroups.derkeiler.com/Archive/Rec/rec.games.go/...

「合意による終局」手続きの詳細と規則14における条件(a)の追加は
筆者自身による。

■日本式II’ルールでの手入れ問題の解決例

日本式II’ルールは有名な手入れ問題を以下のように解決します。

*1. 昭和初期、本因坊秀哉と久保松勝喜代の論争

┌┬○○●○┬┬┐ ハマ:白石1、黒石0
├○┼○●○┼○○
├┼○●●●○┼┤
○○●┼┼●●○○
●●●┼┼┼●●○
○○●●●●┼●●
├○○○○●●┼┤
○┼○●●B┼●┤
└○◆A●┴┴┴┘ 黒51◆とコウを取った局面

この局面で白がすぐにコウを取り返すのは反則。
コウ材に関しては黒が圧倒的に有利。
この局面で「終わり」とするとき、
黒はAとBに手入れしなければいけないかどうかが論争になった。

本因坊秀哉判定:手入れは不必要。
久保松勝喜代判定:手入れは必要。

現在の日本囲碁規約と旧規約は久保松勝喜代判定を支持しており、
黒がAとBに手を入れて終局となり、持碁になる。

本因坊秀哉判定に基づいて、黒がAにもBにも手入れ不要とし、
Aも黒地と数えると黒2目勝ちになる。

「日本式II’」では以下のようにして、白は黒に手入れを強制できる。

白52パス (「日本式II’」で次に黒はパスできない)
黒53ツギB
白54コウ取り
黒55コウ立て
白56コウ立てに対応
黒57コウ取り
白58パス (「日本式II’」で次に黒はパスできない)
黒59ツギA
白60パス
黒61パス
終局(次図)

┌┬○○●○○┬┐ ハマ:白石2、黒石2
├○┼○●○┼○○
├┼○●●●○┼┤
○○●┼┼●●○○
●●●┼┼┼●●○
○○●●●●┼●●
├○○○○●●┼┤
○┼○●●●┼●┤
└○●◆●┴┴┴┘

持碁。この結果は日本囲碁規約に等しい。

ちなみに「日本式I’」でも結果は同じ。
「日本式I、II」では半コウをつがずに
半コウ部分の欠け目は黒地と主張できるので持碁になる。

最後にコウ争いが残る場合は結構多いので、
そのコウ争いに勝った方がコウをつがずに終局できるか否かは
結構重要な問題である。実際、以下の歴史的に有名な事例がある。

*2. 1948年7月、岩本薫和本因坊対呉清源十番碁の第一局

http://mignon.ddo.jp/assembly/mignon/go_kisi/teire1.html

白:呉清源八段
黒:本因坊薫和(岩本薫)
コミ:なし

┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬●○○○○○┬○ アゲハマ
●●●●●┼┼●●┼●●○●○○○┼○ 白石20
○○●○○●●○○●●○○●●○○○┤ 黒石23
○┼○○○○○○○●●○○●●●●○○
○○○●◇●○○●●●●●┼┼┼●●●
●┼○●●●○●●○●○┼┼┼●○┼┤
├○○●○●●○○○○●●●┼┼●●●
├○●●○○○○┼┼○●○○●●○○●
○○●┼●○┼┼┼●○○○●●○○○○
○●●●●○┼┼●○○○○○●●○●┤
○○●┼●○●┼●○○●●●●○○┼┤
●●┼○●○┼○○●●●B●●○○●┤
●●○┼●○┼○●●A○●○●●○┼┤
○●●┼●○●○○●●●○○○○○┼┤
○○●●┼●○○●●┼●●●○●○○┤
○┼○●●●●○○○●●○●○●●○○
├○○○●●○○┼○○○○●●┼●●○
●○○●●●●●○┼○●●●┼┼●┼●
└┴○○●┴●○○┴○○●┴┴┴┴●┘ 最終手は白328◇

この局面で黒がAもしくはBと手入れすると白2目勝ち。
黒の手入れが不要だとすると白1目勝ち。
「日本式II’」では以下のようにして白は黒に手入れを強制できる。

黒1パス(手入れの拒否)
白2コウ取りB
黒3コウ立て
白4コウ立て受け
黒5コウの取り返し
白6パス (次に黒はパスできない)
黒7手入れ
白8パス
黒9パス
対局停止
終局
白2目勝ち
この結論は日本囲碁規約と同じ。

ちなみに「日本式I’」でも結果は同じ。
「日本式I、II」では手入れ不要になり、白1目勝ちになる。

*3. 1959年1月、高川秀格本因坊対呉清源三番碁の第二局

http://mignon.ddo.jp/assembly/mignon/go_kisi/teire2.html

白:呉清源九段
黒:本因坊秀格(高川格)
コミ:4目半

┌┬●◇●●┬┬●●○┬○┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
├┼○┼○●●┼●○○○┼○┼┼○┼┤ 白石15
├○●○○●┼┼┼●○○┼○○○●○┤ 黒石25
├┼●●○○●┼┼●○●○○○●┼○┤
├┼●○○○○●●●●●●○●●┼┼┤
├○○┼○●●●┼●○○○○┼┼○┼┤
├○┼┼┼○○●●○○○┼┼●●┼┼┤
├○┼○○○┼●●●●●○○●○┼┼┤
├○┼┼┼○○○●○●○○┼○○○┼┤
├○○○○●○●○○○┼┼○●○○○○
○○●●●●○●●○┼○○●●○●○●
●●●●○○●●●○○●●┼●○●○●
●┼●○┼○●●○○○○○○○●●●●
├┼○┼●○●●○○●○○●●●●┼┤
├┼┼┼┼●●○●●●○●●┼┼●┼┤
├┼┼●┼┼┼┼┼●●●○○┼●●○┤
├┼┼●┼┼┼┼┼○●┼●┼○○●●┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●○○●┼○○● 白268◇コウ取り、
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴●○┴○┴●┘ 黒269パスの局面

「日本式II’」で白はパスできないのでコウをつぐしかない。
白はコウをついで半目負け。この結論は日本囲碁規約と同じ。

ちなみに「日本式I’」でも結果は同じ。
「日本式I、II」ではコウをつがずに終局にでき、白半目勝ちになる。

*4. 2009年9月3日、大橋拓文四段対潘善琪七段、セキの手入れ問題

http://blog.goo.ne.jp/minamijyuujisei_1984/e/59281a730706...
http://blog.goo.ne.jp/minamijyuujisei_1984/e/f3e6ffc334ef...
http://blog.goo.ne.jp/s-takao-san/e/1ce778ec94eacd7da126a...
http://blog.goo.ne.jp/s-takao-san/e/eee1e4dd99298b7b2441f...

白:大橋拓文四段
黒:潘善琪七段
コミ:6目半

┌┬┬┬┬┬┬●○○○○●┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
├┼●○●┼●●●○○●┼┼┼┼┼┼┤ 白石10
├●┼○┼┼●●○○●┼●┼┼┼┼┼┤ 黒石9
├┼○┼○●●○○●●┼┼┼┼┼●┼┤
├○●●○●○○┼○○●┼┼┼┼┼●●
├┼┼┼●●●○┼○○●┼┼┼┼●●○
├┼┼┼●○○○○●●┼┼┼┼┼●○○
●●┼●●●●○●●●●●┼●●○┼○
●○●●●○●○○●●○○●●○○○┤
●○○●○○●○●●○○○●○●○┼┤
●●○○○┼○○●●●○┼○○┼┼┼┤
├┼●○┼┼○●●○○┼○┼┼┼┼┼┤
●●●●○○○○●○┼○┼┼┼┼┼┼┤
●●●●●●○○○●○┼┼┼┼┼┼┼┤
○○●○○●●●●●○┼┼┼┼┼○┼┤
○┼○●○◇●○●○┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├○○●○○○○○○┼┼┼┼┼○┼┼┤
○●●●●●●●○○○┼┼┼┼┼┼┼┤
└○┴●┴○┴●●●○┴┴┴┴┴┴┴┘ 白226◇の局面

黒227パス
白228パス
対局停止

白が手入れをすると左下のセキはアゲハマの分で黒地3目とみなされ、
白の手入れ不要ならばアゲハマの分で黒地1目とみなされる。
手入れ必要なら黒の1目半勝ち、手入れ不要なら白の半目勝ち。
日本囲碁規約(+α)に基づいた判定によれば黒の1目半勝ち。

「日本式II’」では以下のように解決される。

対局再開
黒1白からのコウ材を消すために自分の地に手入れ、黒1目の損
白2左下手入れ(次図)

●●●●●
○○●○○
○┼○●○
├○○●○○○○○
○●●●●●●●○○○
└○┴●◇○┴●●●○

黒3ヌキ(次図)

●●●●●
○○●○○
○┼○●○
├○○●○○○○○
○●●●●●●●○○○
└○┴●┴┴◆●●●○ アゲハマ増加:白石2

白4手入れ(次図)

●●●●●
○○●○○
○┼○●○
├○○●○○○○○
○●●●●●●●○○○
└○┴●┴◇■●●●○ アゲハマ増加:白石2

黒5ヌキ(次図)

●●●●●
○○●○○
○┼○●○
├○○●○○○○○
○●●●●●●●○○○
└○┴●◆┴■●●●○ アゲハマ増加:白石3

白6盤上への着手、白1目の損
(対局再開から終局まで両対局者は盤上への着手を
同じ回数だけ行なわなければいけない。)

これで合意による終局(次図)

●●●●●
○○●○○
○┼○●○
├○○●○○○○○
○●●●●●●●○○○ セキ石の増加:黒石2
└○┴●■┴■●●●○ アゲハマ増加:白石3

黒1と白6の損が互いにキャンセル。
対局再開後に増えたアゲハマは白石3個。
対局再開後に増えたセキ石は黒石2個。
よって左下のセキは黒地1目とみなされる。
これは対局停止の手入れがない局面での計算と等しい。
白半目勝ち。

解説:「日本式II’」ではセキの目を地とみなさず、白と黒の得点が
地の目数-同色のアゲハマの数-最初の対局再開の後に増えたセキ石の数
で計算される。だから上の図の黒のセキ石■2個は黒の得点を2目減らす。

日本囲碁規約(+α)では黒1目半勝ちと判定されたが、
「日本式II’」では実戦的な解決で白半目勝ちとなる。

ちなみに「日本式II」でも「日本式II’」と結果は同じ。
「日本式I、I’」ではセキの目も地とみなし、得点が
地の目数-同色のアゲハマの数
で計算されるので、左下の部分について、
黒の得点=地1目
白の得点=地3目-アゲハマ増加3目=0目
となり、やはり左下は差し引きで黒地1目とみなされる。
ただし、これは単なる偶然である。

「日本式I、II、I’、II’」では、
死活(他の場所のコウ材を考慮して実戦的に判定)と境界線が確定し、
互いに1目の損になる着手しか残っていない状況で、
両対局者の連続したパスで対局の停止(仮終局)になると、
対局再開から終局までに両対局者は1目の損になる手(パスを含む)を
同じ回数行うことになる。この原理をよく理解していれば、
「日本式II’」では、白が手を入れずに対局停止に持ち込めた時点で、
白半目勝ちが確定していることがわかる。
「日本式I、II、I’、II’」では、相手に手を入れさせたければ、
パスパスで対局停止となる前にそうなるようにする必要がある。

*5. 2009年9月14日、王銘エン九段対内田修平三段、長生

http://wiki.optus.nu/igo/index.php?cmd=kif&cmds=displ...
http://taisen.mycom.co.jp/taisen/contents/igo/meien/meien...

白:王銘エン九段
黒:内田修平三段
コミ:6目半

┌●┬┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●┼●○◆┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石5
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石6
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤
├○●●┼○┼┼┼┼┼○┼┼┼●┼┼┤
├○○●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼○●┼┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼○●●●●●○○┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├●●○●┼●○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼○○●○○┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
├┼┼○┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼●┼┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼●┼●┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼○●┼○┼○┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼○○○○●┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┤
├┼┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘ 黒99◆の局面

実戦の進行は次の通り。

白100コウ取り(次図)

┌●┬┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●◇┼○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石5
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石7
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤

黒101コウ立て(次図)

◆●┬┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●○┼○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石5
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石7
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤

白102ヌキ(次図)

┌┬◇┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●○┼○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石5
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石9
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤

黒103コウ取り(次図)

┌┬○┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●┼◆○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石6
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石9
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤

白104コウ立て(次図)

┌┬○◇●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●┼●○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石6
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石9
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤

黒105ヌキ(次図)

┌◆┬┬●○○┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐ アゲハマ
○○●●┼●○●┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┤ 白石8
├○○●●○●●┼┼○┼┼○┼┼●┼┤ 黒石9
○●●○○○┼┼┼┼┼┼●○┼●┼┼┤
○○●┼┼┼┼┼●┼●┼┼○┼┼┼┼┤
├○●●┼○┼┼┼┼┼○┼┼┼●┼┼┤
├○○●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼○●┼┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼○●●●●●○○┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├●●○●┼●○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼○○●○○┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
├┼┼○┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼●┼┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼●┼●┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼○●┼○┼○┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼○○○○●┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┤
├┼┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘ 黒105◆の局面

これは黒99の局面の再現になっている。
実戦は白110まで同手順を繰り返し、
日本囲碁規約に基づき無勝負打ち直しとなりました。

「日本式II’」では黒105の局面で引き分け(もしくは無勝負、再対局)
となり、日本囲碁規約と本質的に同じ結果になります。

これは「日本式I’」でも同じです。
しかし、「日本式I、II」では同一局面再現を完全に禁止しているので、
黒は上の図の黒105◆を打つことができなくなります。

*6. 両劫ゼキ

例として次の局面について考えよう。

┌●┬●○●┐ アゲハマ
●●●○○●● 白石1、黒石0
○●○┼○●┤
├○○○○●●
○○◇●●○○
●●●●○┼○
└●┴●○○┘ 白40◇ダメ詰めの局面

この局面で黒にはコウ取りとパス以外に許された手がない。

日本囲碁規約ではここでパスが連続して対局の停止となるとしてよい。
http://www.nihonkiin.or.jp/joho/kiyaku/shikatsu-22_25.htm
の死活例25によれば両劫ゼキはセキで活き。
セキは地にならないので、黒3目勝ち。

「日本式II’」では以下のように
同形反復による引き分け(もしくは無勝負、再対局)になる。

変化1
黒41コウ取り
白42コウ取り (これで黒にはパス以外に許される手がない)
黒43パス (コウ取り、パス、パスは禁止なので、次に白はパスできない)
白44コウ取り
黒45コウ取り
同形反復によって引き分け(もしくは無勝負、再対局)。

変化2
黒41パス
白42コウ取り
黒43コウ取り (これで白はパス以外に許される手がない)
白43パス (コウ取り、パス、パスは禁止なので、次に黒はパスできない)
黒44コウ取り
白45コウ取り
同形反復によって引き分け(もしくは無勝負、再対局)。

「両劫ゼキ」ができる確率は非常に低いので、
この違いは大きな違いではないと考えられる。

ちなみに「日本式I’」でも「日本式II’」と同じになる。
「日本式I、II」では同一局面再現が完全に禁止されているので、
両劫ゼキがあっても引き分け(もしくは無勝負、再対局)になりません。

*7. 隅の曲がり四目

隅の曲四目の例
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_s6/j6040000.html
隅の曲四目とセキの存在する例
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_s6/j6050000.html
の結論は「日本式I、II、I’、II’」すべて同じ。

「日本式I、II、I’、II’」のすべてにおいて、
消せるコウ材しかないとき「隅の曲がり四目」は無条件死とみなされる。
しかし、「隅の曲四目とセキの存在する例」のように
消せないコウ材が並存する場合には「隅の曲がり四目」は死とは限らない。
実戦的に解決することになる。

日本囲碁規約では、「隅の曲がり四目」は
消せないコウ材が並存していても無条件死となる。

「隅の曲がり四目」と消せないコウ材が並存する確率は低いので、
この違いはそう大きくないと考えられる。

隅の曲四目とセキの存在する例の図

●┬●┬◇●○┬┐ アゲハマなし
├●○○○●○┼○
●○○●●●○┼┤
├○●●┼●○○┤
○○●┼●●○○○
●●┼●○○○●●
├┼┼●○○○●┤
├┼┼●○●●●○
└┴┴●○●┴○┘ 白56◇、黒パス、白パスで対局停止の局面

「日本式I、II、I’、II’」では実戦的な解決によって
右下の白2子と左上の黒4子を死石とみなして計算したのと
同じ結果になる。黒1目勝ち。
日本囲碁規約では右下の隅の曲がり四目は死となり、
左上はセキなので、白11目勝ちになる。
しかし、このような場合が生じることはまれである。

*8. 取らず三目

http://park6.wakwak.com/~igo/igorule/jirei.html
>嘉永年間に1図の形が実戦にでき、
>ときの権威者である十四世本因坊秀和(八段)に採決を仰いだ。
>秀和答えて曰く、「取らず三目(打たず三目)がよかろう」。

http://tmkc.pgq.jp/igo/j_s6/j6070001.html
の例の結論は「日本式I、II、I’、II’」のすべてで同じ。
「日本式I、II、I’、II’」において、
消せるコウ材しかないとき「取らず三目」は3目の地とみなされる。
「日本式I、II、I’、II’」は消せるコウ材しかないとき
本因坊秀和判定を再現する。

日本囲碁規約では「取らず三目」の形のまま終局にすると
セキとみなされてしまう。
http://www.nihonkiin.or.jp/joho/kiyaku/shikatsu-01.htm
http://www.nihonkiin.or.jp/joho/kiyaku/gaiyo-02.htm
日本囲碁規約では、「日本式I、II、I’、II’」と違って、
たとえ相手からのコウ材が存在しない場合であっても、
対局の継続によって本因坊秀和判定を再現できない。

しかし、取らず三目の形ができる確率は極めて低いので、
この違いは大した違いではないと考えられる。

*9. 両劫に仮生一

http://park6.wakwak.com/~igo/igorule/jirei.html
>古今著聞集に「建長五年十二月二十九日法深坊の許に、
>刑部坊という僧あり。彼と二人碁を打ける程に、
>法深坊の方、目一つつくりて、其上劫を立てりければ、
>只には取られるまじといはれけり(以下略)」のくだりがある。
>これは鎌倉時代、如仏が「両劫に仮生ひとつ」と判定した。
>なお、「両劫に仮生ひとつ」は「月光の活」とも呼ばれる。

日本囲碁規約では「如仏の判決」を否定され、
「両劫に仮生一」の形は死とみなされる。
http://www.nihonkiin.or.jp/joho/kiyaku/shikatsu-11.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%82%E4%BB%8F%E3%81%AE%...

「日本式II’」ではルールに基づいて実戦的に解決することになる。
取りに行く側が三劫による同形反復を避ければ
セキ活きとなり、「如仏の判決」が支持される。
取りに行く側が三劫による同形反復にすれば
引き分け(もしくは無勝負、再試合)になる。
取りに行く側は最悪引き分け(もしくは無勝負、再試合)に持ち込める。

この結論は「日本式I’」でも同じ。
「日本式I、II」では同一局面反復の完全な禁止ルールによって
「両劫に仮生一」の形は死ぬことになる。

「両劫に仮生一」の形ができる確率は極めて低いので、
以上の違いは大した違いではないと考えられる。

*10. 損をしながらの同形反復

例として次のセキを考える。

┌●┬●○┬
○○●●○┼
├●●○○┼
●●○○┼┼
○○○┼┼┼
├┼┼┼┼┼

他の部分はすべて決着がついており、
ダメもすべて詰まっていると仮定する。
次の手順について考える。

黒1(次図の◆)

◆●┬●○┬
○○●●○┼
├●●○○┼
●●○○┼┼
○○○┼┼┼
├┼┼┼┼┼

白2ヌキ(次図)

┌┬◇●○┬ アゲハマの増加
○○●●○┼ 黒石2
├●●○○┼ 白石0
●●○○┼┼
○○○┼┼┼
├┼┼┼┼┼

黒3ヌキ(次図)

┌◆┬●○┬ アゲハマの増加
○○●●○┼ 黒石2
├●●○○┼ 白石1
●●○○┼┼
○○○┼┼┼
├┼┼┼┼┼

これで最初の局面が再現された(手番は異なる)。
この後、白の手番がまわったとすると、白はパスをするしかない。
そこで黒が上と同手順を繰り返すと無限ループに陥ってしまう。

「日本式II’」では(手番を無視して)3手以上前の局面が再現されたとき
アゲハマで損をしている方が負けというルールになっているので、
黒3ヌキの局面で黒の負けになる。

日本囲碁規約ではこのような場合をどのように扱うかが曖昧である。
交互着手が継続しているならば白は十分にアゲハマで得をしてから、
セキの白石を捨てて勝てるので問題にならない。
しかし死活確認のための仮想手順では問題になる。
実際、大橋拓文四段対潘善琪七段のセキの手入れ問題では
「死活確認のための仮想手順における損をしながらの同形反復」
の問題が発生する。日本囲碁規約死活例23でも同様である。
http://www.nihonkiin.or.jp/joho/kiyaku/shikatsu-22_25.htm
死活例23の解説によれば、日本囲碁規約第一条の囲碁の目的
“「地」の多少を争うこと”によって、
損をしながらの同形反復は禁止されているということにするようだ。
ちなみに Jasiek 氏による日本囲碁規約の修正版 (Japanese 2003 Rules)
では「損をしながらの同形反復は負けになる」と明確に記述されている。

曖昧な点は残りますが、「損をしながらの同形反復」の扱いは、
日本囲碁規約と「日本式II’」で本質的な相違はないと考えられます。

*11. セキ殺し

例として次の局面を考えましょう。

┌●●┬○●● アゲハマなし
●○○○○●●
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
◇○○┴○┴○ 白40◇の局面

日本囲碁規約では左上はセキで持碁。

「日本式II’」ではどうなるでしょうか?
「日本式II’」では以下の変化を読んでおかないといけません。

黒41(次図の◆)

┌●●┬○●● アゲハマなし
●○○○○●●
◆○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○┴○

白42ヌキ(次図)

◇●●┬○●● アゲハマ
├○○○○●● 黒石2、白石0
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○┴○

「日本式II’」のもとで、黒は白◇をすぐに取れない。
もしも黒43ヌキ(白◇を取る手)とすると、
盤上の石の配置が白40の局面に戻ってしまう(手番は無視)。
同形反復のあいだに増えたアゲハマは黒石2、白石1となり、
黒は損をしながらの同形反復を実行したことになり、負けとなる。
だから、黒は「コウ立て」をするしかない。

黒43コウ立て(次図)

○●●┬○●● アゲハマ
├○○○○●● 黒石2、白石0
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○◆○
○○○┴○┴○

白44コウ立てに対応(次図)

○●●┬○●● アゲハマ
├○○○○●● 黒石3、白石0
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○◇○

黒45ヌキ(次図)

┌●●┬○●● アゲハマ
◆○○○○●● 黒石3、白石1
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○○○

白46パス(パス以外に有効手がない、次図)
黒47(次図の◆)

┌●●┬○●● アゲハマ
●○○○○●● 黒石3、白石1
◆○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○○○

白48ヌキ(次図)

◇●●┬○●● アゲハマ
├○○○○●● 黒石5、白石1
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
○○○┴○○○

これは白44の局面と盤上の石の配置も手番も同じ。
同形反復のあいだのアゲハマの増加分は黒石2、白石1なので
黒が損をしており、「日本式II’」では黒の負けとなる。
「日本式II’」でも白40の局面で持碁と考えるのが妥当です。
これは日本囲碁規約の結果と一致しています。

「日本式I’」では左上のセキの目が黒地1目になるので黒1目勝ち。
「日本式I、II」では同形反復が完全に禁止されているので、
白は上の図の白48ヌキを打てず、やはり黒勝ちになります。
このように盤上の石の配置の同形反復を完全な禁止のもとでは
「セキ殺し」が可能な場合が出て来ます。
このような例があるので同形反復に関するルールの設定は難しい。

「日本式I、II」では、盤上の石の配置が再現されるような着手は完全に
禁止されています(所謂 positional super ko rule)。
このルールを次のように変更すれば上の「セキ殺し」の例は排除できます。

・盤上の石の配置が完全に再現されるような着手が打たれたとき、
同形反復のあいだに両対局者が打ち上げた石の数によって勝敗を決める。
数が同じ場合には同形反復の着手を打った側の負けとする。
数が違う場合には同形反復の間に打ち上げた石の数が多い方を勝ちとする。

実際にはこのようにルールを変更しなくても、
19路盤では上の「セキ殺し」の実現はほぼ確実に不可能です。
だから19路盤の場合には無視しても現実には問題になりません。
最初の図を少し変えて、次の局面を考えましょう。
双方の地が1目ずつ増えています。

┌●●┬○●● アゲハマなし
●○○○○●┤
├○●●●●┤
○○●┼┼●●
●●●●●○○
●○○○○┼○
◇○┴┴○┴○ 白38◇の局面

この図から上と同じ手順を進めると、
上で白は白46でパスせざるをえなかったが、
こちらでの対応する局面で白は1目損な手を打ちパスせずにすむので、
「セキ殺し」が不可能になります。

以上です。
ぃーね!
棋譜作成
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