松江大好きさんの日記

(Web全体に公開)

2011年
05月10日
16:30

銀バブル崩壊が招いた商品市場の大雪崩


日経新聞の記事です。
商品相場は、マーケットが小さいだけに変動幅が大きく、恣意的に大きく価格が変動してしまいます。
日本のGWの間にこう言う動きがあると、海外市場での取引が出来ない個人投資家は、対応が難しく大変なリスクを負ってしまいます。











2011/5/10 7:00記事ツール


 先週、国際商品価格が急落した。コモディティーバブル崩壊の兆しかと騒がれている。これまで商品市場には、新興国需要の急増がはやされて実需をはるかに超える過剰流動性が流入していた。ドカ雪のごとく積もった投機マネーの新雪が、表層雪崩を起こしたのだ。


 雪崩の要因は多岐にわたる。


1)米国でISM(サプライマネジメント協会)景況感指数など主要経済指標が相次いで悪化した(非農業部門の新規雇用者数は大幅に増加したので、商品価格急落も一服はしたが)


2)インドがインフレ抑制のため0.5%幅の利上げに踏み切るなど、消費国である新興国の金融引き締めが加速した


3)ECB(欧州中央銀行のトリシェ総裁が記者会見で6月再利上げ説に言及せず、金利差を見込んでユーロ買いドル売りに走っていた投機筋が巻き戻しに転じ、その結果、ドル高基調となった。そこで低金利通貨ドルを借りて商品などのリスク資産で運用するドルキャリーの巻き戻しが起こり、商品の売り手じまいが相次いだ


――などである。中でも3)の売り手じまいの引き金を引いたのが、銀であった。


 2011年に入り、銀市場はグラフのような暴騰を演じていた。太陽光発電用などの新規産業需要がはやされていたところに、金に比べて銀はいまだ史上最高値の50ドルに達していないという割安感があり、銀ETFという個人投資家でもアクセスできる新たな銀投資媒体が上場されたことも手伝って、大量のホットマネーが流入した。その結果、価格は50ドルの大台一歩手前の49ドル80セントに瞬間タッチした。そこから“劇場のシンドローム”が突然起こったのだ。




金と銀、2000年末を100とした指数  2010年夏までは、ほぼ連動した動きだった。(データ:ワールド ゴールド カウンシル)


 市場規模や流動性が金に比してはるかに小さい市場に多数の個人投資家やヘッジファンドが参加すると、超満員の小劇場のごとき様相となる。そこで誰かが“火事だ!”と叫ぶと、観衆が一斉に非常口に殺到する。


 この劇場のシンドロームを引き起こした舞台が、他ならぬ取引所であった。


 取引所は、銀先物取引の過熱を冷やすために、先物取引の際に顧客が預託する“証拠金”を4250ドル→1万8900ドル→2万1600ドルと矢継ぎ早に引き上げたのだ。そこで顧客は一斉に手じまいに走る。さらに追加証拠金を払えない投資家は、金や原油の先物契約を手じまって現金を調達する。ここにリスクの連鎖が生じる。


 小さな銀劇場の火事が、商品のシネマコンプレックス全体を包むような大火事に拡大してしまったのだ。


 しかも東京は連休中であったので取引所はクローズ。つまり非常口が閉鎖された状態。脱出したくても(=売りたくても)売れないという、個人投機家にとっては“生殺し”状態になってしまった。


 筆者のツイッタ―のタイムラインには“数分で全財産を失ってしまった”という悲痛なつぶやきが見られた。


 そして東京が連休中のニューヨーク(NY)市場では、銀ETF市場から10億ドル(約800億円)という記録的な金額が流出。5月6日の金曜日には上場銘柄の売買量ランキングで銀ETFが1億6000万株と、シティバンク株に次ぐ第2位となった。


 さらに暴落の背景として、リサイクルの急増も重要だ。日本でも銀製品を貴金属店に持ち込み換金する動きが見られたが、世界的にも価格高騰に誘われるようにリサイクルの売りが急増していた。ヘッジファンドの売りのような派手さはないが、まとまると国際価格の変動にも影響を与えるほどの規模になる。しかも先物と異なり、短期の買い戻しはない。売りっぱなしなのでボディーブローのごとく相場には効く。


 かくしてバブルがはじけた銀市場であるが、銀はもともと工業用が需要全体の46%を占める産業資材である。以前は写真フィルム用が需要の24%を占めていたが、デジタルカメラの普及とともに衰退。しかし熱伝導性、電気伝導性に優れる金属なので、ここ10年ほどでハイテク需要が40%も急増したのだ。さらに中国、インドでも銀貨などの需要が高まっている。銀は「Poor man's gold(貧者の金)」ともいわれ、単価が金よりはるかに安いので庶民にも手が届く貴金属投資媒体なのだ。


 ゆえにこのまま価格が長期的に下がり続けることはない。コモディティーとしての新たな需給均衡点を模索する過程で起きた、価格のオーバーシュート現象といえよう。



 その過程で価格の変動性(ボラティリティ)が高まると、量的緩和による過剰流動性の一部が集中的に流入して、さらにボラティリティを高める。「Hi-beta gold=β値の高いゴールド」などとも呼ばれるゆえんだ。銀ETFの残高は、大量に流出した今でも工業用需要をしのぐ規模に膨張したままなので、この投資分野の売買動向が今後の価格の鍵を握る。


 2001年には価格が4ドルで、貴金属ならぬ卑金属とまで揶揄(やゆ)された銀。それが2005年には7ドル、2008年には14ドルと静かに価格上昇を続け、2011年に50ドル近くまで暴騰した。その間、総需要は20%しか増えていない。従って直近の30ドル台という価格でもいまだ割高という見方も多い。金価格との比価の歴史的推移を見ても銀はいまだ割高である。


 しかし、銀は米国人に特に人気がある。金統制時代が長かったためであろう。NY市場でひとたび投機人気に火がつくと、高値覚えの押し目を狙った買いが波状的に繰り返されるのが常である。1980年には、有名なハント兄弟による買い占め騒動が起こり、価格が50ドルを突破した。ちなみに筆者はその当時スイス銀行のトレーディングルームでその一部始終を体験したが、今回同様に価格暴落の引き金を引いたのは取引所の規制であった。それでも米国人の銀好きは収まらない。


 今後の価格動向としては、投機マネーによる価格上昇分の剥落(はくらく)が一巡したところが底値となり、長期的にはハイテク用と新興国需要をベースに乱高下を繰り返しつつ、下値を切り上げてゆくであろう。


 個人投資家へのアドバイスがある。銀は「リスク耐性の高い肉食系投資家向けの限定商品」なのだ。これをしっかりと認識してほしい。


豊島逸夫(としま・いつお)
 ワールド ゴールド カウンシル(WGC)日韓地域代表。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて貴金属ディーラーとなる。同行で南アフリカやロシアなどから金を買い、アジアや中近東の実需家に金を売る仲介業務に従事。さらにニューヨーク金市場にフロアトレーダーとして派遣され、金取引の現場経験を積む。その後東京金市場の創設期に参画。ディーラー引退後、WGCに移り、非営利法人の立場から金の調査研究、啓蒙活動に従事。金の第一人者であり、素人にもわかりやすく金相場の話を説く。
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