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数学
最近の以下の日記
10/29の日記“ヨセ問題図の「差」の応用”
11/03の日記“無限小と1目のヨセ”
で「組み合わせゲーム理論」と碁の関係について説明しました。
10/29の日記で使った例は結構難しいものだし、
11/03の日記は内容自体がかなり難しいものになってしまいました。
この日記では囲碁をやっている人であればよく知っている話が
組み合わせゲーム理論における「差」=「引き算」の応用で
どのように導かれるかを説明します。
■ヨセ問題図の「差」の方法
コウの問題を無視できるならば、
ヨセの問題図Xに黒が一手打った後の図Yと別の手を打った後の図Zの
優劣を以下の方法で判定できます。
1. まず、Y図と白黒反転させたZ図を合わせたY-Z図を考える。
2. 次に、Y-Z図で双方が最善をつくすとき
黒先と白先の場合の結果がどうなるかを調べる。
3. 結論は次の通り。
(1) 黒先なら黒が1目以上勝ち、白先でも黒が持碁以上の結果を得られる
ならば、Y-Z図は黒にとって有利である。
したがって、黒はZ図よりもY図を選んだ方が常に得である。
(2) 白先なら白が1目以上勝ち、黒先でも白が持碁以上の結果を得られる
ならば、Y-Z図は白にとって有利である。
したがって、黒はY図よりもZ図を選んだ方が常に得である。
(3) 以上のふたつ以外の場合にはY図とZ図の優劣はつけられない。
周囲の状況によってどちらを選ぶかを変えなければいけない。
■一線のハネツギ(出入り2目の後手ヨセ)とサガリのどちらが得か?
次のヨセ問題図Pについて考えましょう。
●●●●○○○○ P図
●┼┼●○┼┼○
●┴┴BA┴┴○
ヨセで黒がこの部分で打つならAとBのどちらが良いか?
黒がAハネツギとした図A
●●●●○○○○ A図
●┼┼●○┼┼○
●┴┴●●○┴○
黒がBとして白が手を抜いた図B
●●●●○○○○ B図
●┼┼●○┼┼○
●┴┴●┴┴┴○
正解はもちろんAです。
しかし、黒Bと打っても、白Aと受けてくれれば黒先手になるし、
白が受けなければ黒Aの先手ヨセが残るので、損にならないのでは
ないかという疑問は残ります。
このような疑問を解決するためには、
A図と白黒反転したB図を合わせた図(A-B図の差)を考え、
黒先の結果と白先の結果がどうなるか
を調べてみれば必要十分です。
●●●●○○○○ ○○○○●●●● A-B図
●┼┼●○┼┼○ ○┼┼○●┼┼●
●┴┴●●○┴○ ○┴┴○┴┴┴●
(1) A-B図で黒先の場合(奇数が黒)
黒1 右で守り
●●●●○○○○ ○○○○●●●●
●┼┼●○┼┼○ ○┼┼○●┼┼●
●┴┴●●○┴○ ○┴┴○◆┴┴●
黒1目勝ち。
(2) A-B図で白先の場合(奇数が白)
白1 右で出
黒2 右で守り
●●●●○○○○ ○○○○●●●●
●┼┼●○┼┼○ ○┼┼○●┼┼●
●┴┴●●○┴○ ○┴┴○◇◆┴●
持碁。
(3) 結論。A-B図はサガリの白よりハネツギの黒が有利。
P図では周囲の状況によらずAハネツギがBサガリより有利。
この議論の(1)は白サガリは何かの拍子に黒に守られると損になるので
ダメだということを示していると解釈できます。
■カタツギとサガリとカケツギのどれが得か1
今後は次のヨセ問題図Qについて考えましょう。
●●●●●●○○○○○○ Q図
●┼┼┼┼C●○┼┼┼○
●┴┴┴┴ED┴┴┴┴○
ヨセで黒がこの部分で打つならCDEのどれが良いか?
黒Cカタツギの図C
●●●●●●○○○○○○ C図
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○
●┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴○
黒がDサガリとして白が押さえて黒ツギとなった図D
●●●●●●○○○○○○ D図
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○
●┴┴┴┴┴●○┴┴┴○
黒がEカケツギとした図E
●●●●●●○○○○○○ E図
●┼┼┼┼┼●○┼┼┼○
●┴┴┴┴●┴┴┴┴┴○
▲1. まずC-Dを調べましょう。
●●●●●●○○○○○○ ○○○○○○●●●●●●
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○ ○┼┼┼┼○○●┼┼┼●
●┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴○ ○┴┴┴┴┴○●┴┴┴●
(1) 黒先なら、黒が左でハネツギを打って黒1目勝ち。
(2) 白先なら、白が左でハネツギを打って白1目勝ち。
(3) 結論。C-D図は先手勝ち。
Q図でCカタツギとDサガリのどちらが有利かは周囲の状況による。
実際、以下のような場合があります。
・Q図以外に残っているヨセがひとつもなければ、
黒はDサガリを選ぶべきである。
黒Cツギとすると白にハネツギの手止まりを打たれてしまう。
・Q図以外に残っているヨセがP図しかなければ、
黒はCツギを選ぶべきである。
黒Dサガリとすると白にDの右のオサエを先手で打たれてしまい、
P図のハネツギの手止まりにまわられてしまいます。
まあ半目勝負になる場合はほとんどないので
この違いは非常に小さいと考えられるのですが。
▲2. C-Eを調べましょう。
●●●●●●○○○○○○ ○○○○○○●●●●●●
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○ ○┼┼┼┼┼○●┼┼┼●
●┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴○ ○┴┴┴┴○┴┴┴┴┴●
(1) 黒先の場合
黒が左でハネツギ、白が右でハネツギとなるなら、持碁。
黒が右でサガリ、白が左でハネツギ、黒が右でアテ、白ツギなら、持碁。
(2) 白先の場合
白が左でハネツギ、黒が右でサガリ、白右で一線ツギなら、白1目勝ち。
(3) 結論。C-E図ではカケツイだ白の側が有利。
Q図で黒はCのカタツギよりEのカケツギを選んだ方が有利。
ただし、これは本当にミクロの話で
コウ材の問題を無視していることに注意して下さい。
▲3. 最後にD-Eを調べましょう。
●●●●●●○○○○○○ ○○○○○○●●●●●●
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○ ○┼┼┼┼┼○●┼┼┼●
●┴┴┴┴┴●○┴┴┴○ ○┴┴┴┴○┴┴┴┴┴●
(1) 黒先なら、黒が右でサガリ、白一線ツギで、持碁。
(2) 白先なら、白が右でハネツイで、白1目勝ち。
(3) 結論。D-E図ではサガった黒よりもカケツイだ白の側が有利。
Q図で黒はDのサガリよりEのカケツギを選んだ方が有利。
ただし、繰り返しになりますが、これは本当にミクロの話で
コウ材の問題を無視しているので本当に要注意だと思います。
■カタツギとサガリとカケツギのどれが得か2
今後は次のヨセ問題図Rについて考えましょう。
●●●●●●○○○○○○ R図
●┼┼┼┼F●○┼┼┼○
●┴┴┴┴┴G┴○┴┴○
このR図は上のQ図と微妙に違うことに注意して下さい。
ヨセで黒がこの部分で打つならFGのどちらが良いか?
(カケツギ(Fの下、Gの左)はコウがからむのでここでは扱わない。)
黒Fカタツギの図F
●●●●●●○○○○○○ F図
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○
●┴┴┴┴┴┴┴○┴┴○
黒がGサガリとして白が押さえて黒ツギとなった図G
●●●●●●○○○○○○ G図
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○
●┴┴┴┴┴●○○┴┴○
ツギのF-G図について調べましょう。
●●●●●●○○○○○○ ○○○○○○●●●●●●
●┼┼┼┼●●○┼┼┼○ ○┼┼┼┼○○●┼┼┼●
●┴┴┴┴┴┴┴○┴┴○ ○┴┴┴┴┴○●●┴┴●
(1) 黒先なら、黒が左でサガリを打って持碁。
(2) 白先なら、白が左でハネツギを打って白1目勝ち。
(3) 結論。F-G図では最初に下がりを打った白が有利。
R図ではFカタツギよりGサガリを選んだ方が有利。
Q図ではカタツギとサガリの優劣がつかなかったのですが、
R図でははっきりサガリの方が有利になっています。
ほんのちょっとした図の違いで結果が変わるので注意が必要です。
■ヨセ問題図の「差」の活用
以上のようにヨセ問題図の「差」を考えて、
その図において黒先と白先の場合にどうなるかを考えることは
微妙なヨセの問題への理解を深めるために役に立つと思います。
もとの図(P図やQ図)を眺めているだけでは分からないことが、
A-B図、C-D図、C-E図、D-E図の上で
実際に石を戦わせてみると分かります。
すでに十分理解しているつもりだった単純なヨセであっても
色々発見があるかもしれないので、今後も色々試してみることにします。
プロの実戦譜でコウがからんでいないのに難しい小ヨセが延々と続くもの
があれば、研究してみたいと思っているのですが、まだ探していません。
以上です。