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数学
この日記は一つ前の日記
“サーモグラフィーとヨセの分類の続き”
の続きです。サーモグラフィーとその計算の仕方をひとつ前の日記で
説明しておきました。サーモグラフィーについてはそちらを見て下さい。
■まとめ
最初に結論をまとめておきます。
(1) サーモグラフィーを描けば(もしくは描くために十分なデータを揃えれば)
ヨセのタイミング、ヨセがいつ先手になるか、ヨセの出入りがわかる。
・サーモグラフィーの高さはヨセを打つタイミングを表わしている。
高さが高いヨセほど急ぐ必要がある。
・サーモグラフィーが垂直に立っている部分は先手ヨセを表わしている。
・サーモグラフィーの幅はヨセの出入りの大きさを表わしている。
(2)「両先手」に分類される図のヨセであっても先手にならない場合がある。
だから図の形でヨセを「両先手」に分類するのは厳密には誤りである。
(ひとつ前の日記で形で「片先手」に分類可能な図を示してある。)
(3) t を残りの部分全体の温度(最大のヨセの大きさの見合い計算値)
とするとき、「両先手」に分類されるヨセの図において、
黒からのヨセが先手になるような t の範囲と
白からのヨセが先手になるような t の範囲は一般に異なる。
その異なり具合が「権利の強さ」の違いを表わしている。
■後手ヨセ
まず基本になる後手ヨセの場合の例を示しておきます。
●●●●●●●●●○○○○○○○ P図
●●●●○○○○┼●●┼○○○○
●●●●●●●●○○○○○○○○
黒が打てば黒地8目、白地0目なので黒地-白地=8目。
白が打てば黒地0目、白地5目なので黒地-白地=-5目。
したがってP図のヨセは出入り13目の後手ヨセです。
後手ヨセでは見合い計算の数字は出入りの数字の半分になるので、
P図のヨセは見合い計算で6.5目の後手ヨセになります。
8目と-5目の平均を取って、P図は黒地-白地=1.5目と目算されます。
P図のサーモグラフィーは次の通り。
・
・ t=8
・
・ t=7
◎ t=6.5
● ○ t=6
● ○
※→● ○ t=5
● ○
● ○ t=4
● ○
● ○ t=3
● ○
● ○ t=2
● ○
● ○ t=1
● ○
←─●─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─○──
8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5
横軸はヨセの結果を黒地-白地で表わした数字です。
縦軸の t はP図以外の残りの部分全体の温度を表わします。
●はP図で黒が打った場合の結果、
○はP図で白が打った場合の結果、
・はP図で白も黒も打たない場合の目算結果を表わし、
◎は●と○が重なっていることを意味しています。
たとえば t=5 ならばP図以外の残りの部分にある最大の手が
見合い計算で5目の後手ヨセ相当の手であるということになります。
t=5 で黒がP図でヨセを打つと黒地-白地=8目になりますが、
白が5目の後手ヨセを打つので差し引きで結果は3目になります。
そのことは「※→」の●で表わされています。
P図以外の残りの部分全体の温度 t が 6.5 より大きい場合には、
P図でヨセを打つと他の場所のそれより大きなヨセを打たれてしまうので
P図でヨセが打たれることはありません。
t>6.5 のときP図は黒地-白地=6.5目と目算されることになります。
そのことがサーモグラフィーの・・・の部分で表わされています。
白と黒の両方がP図でヨセを打つ可能性のある最大の t は 6.5 です。
この 6.5 がP図の温度=P図のヨセの見合い計算での大きさに
なっています。
■通常「両先手」に分類される形
P図を段階のヨセに変形した次の図を考えましょう。
●●●●●●●●●○○○○○○○ Q図(外側の石は活石)
●○○○○○○┼┼┼●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○
このQ図のヨセは通常「両先手」に分類されます。
Q図で黒と白が着手した後の図を以下に示しておきます。
●●●●●●●●●○○○○○○○ R図
●○○○○○○┼◆┼●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○
●●●●●●●●●○○○○○○○ A図
●○○○○○○┼●◆●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○
●●●●●●●●●○○○○○○○ B図
●○○○○○○┼●◇┼┼┼┼┼○
●●●●●●●●○○○○○○○○ アゲハマ:黒石5
●●●●●●●●●○○○○○○○ S図
●○○○○○○┼◇┼●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○
●●●●●●●●●○○○○○○○ C図
●┼┼┼┼┼┼◆○┼●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○ アゲハマ:白石6
●●●●●●●●●○○○○○○○ D図
●○○○○○○◇○┼●●●●●○
●●●●●●●●○○○○○○○○
「仮に」黒がQ図をR図にするヨセが後手ヨセになるとすると、
A図(黒地-白地=13目)とB図(黒地-白地=3目)の平均を取って、
R図の価値は黒地-白地=8目と計算されます。
同様にして「仮に」白がQ図をS図にするヨセが後手ヨセになるとすると、
C図(黒地-白地=1目)とD図(黒地-白地=-11目)の平均を取って、
S図の価値は黒地-白地=-5目と計算されます。
これらの数字はP図と同じです。
だから「仮に」の仮定のもとで、
P図は黒地-白地=1.5目と目算され、
P図でのヨセは見合い計算で6.5目の後手ヨセだということになります。
もちろんこれは正確ではなく、実際には、
黒がQ図をR図にするヨセを打つと白はすぐにB図にする可能性が高く、
白がQ図をS図にするヨセを打つと黒はすぐにC図にする可能性が高い
のです。Q図は通常「両先手ヨセ」に分類されます。
R図の温度は5度なので(R図のヨセは見合い計算で5目の後手ヨセなので)、
Q図以外の残りの部分全体の温度 t が5度より低ければ、
黒がQ図をR図にするヨセを打つと白はすぐに受けてB図にします。
つまり t<5 ならばQ図での黒からのヨセは先手になります。
S図の温度は6度なので、
同様にして t<6 ならばQ図での白からのヨセは先手になります。
このことを考慮するとQ図のサーモグラフィーは以下の形になること
がわかります。
・
・ t=8
・
・ t=7
◎ t=6.5
● ○ t=6
● ○
● ○ t=5
● ○
● ○ t=4
● ○
● ○ t=3
● ○
● ○ t=2
● ○
● ○ t=1
● ○
←─┼─┼─┼─┼─┼─●─┼─○─┼─┼─┼─┼─┼─┼──
8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5
この図から以下が読み取れます。
・Q図の温度は6.5度であり、黒地-白地=1.5目と目算される。
・Q図以外の残りの部分全体の温度が6.5より高いとき
白も黒もQ図でのヨセを打たない。
・Q図以外の残りの部分全体の温度が6と6.5のあいだのとき
Q図のヨセは両後手になる。
・Q図以外の残りの部分全体の温度が5と6のあいだのとき
Q図のヨセは白の片先手になる。
・Q図以外の残りの部分全体の温度が5より低いとき
Q図のヨセは両先手になる。
・Q図のヨセはおおむね「両先手」とみなせるが、
先手ヨセを打てる確率は白の方が少し高い。
繰り返しになりますが、Q図以外の残りの部分全体の温度が t であるとは
Q図以外の部分にある最大の手が見合い計算で t 目の後手ヨセ相当の手
だということです。
このように通常「両先手」に分類されるQ図が実際に両先手になるか
どうかは残りの部分全体の温度に依存します。
このことは実戦的に非常に重要で、勝つためには相手からの大きなヨセの手
に手抜きしてさらなる損害を受け入れながら、別の場所で大きなヨセの手を
打つ必要が生じることがあります。
両先手ヨセを形だけで判断すると損をしてしまいます。
あと、サーモグラフィーは「両先手ヨセ」の権利の強さの
違いも自然に表現しています。
権利の強い側の方が先手ヨセになる t の範囲が広くなっています。
Q図を見れば白の側の権利が少し強い
(白の後続手の方が少し大きい)ということは明らかですが、
サーモグラフィーを描けば(もしくはそのためのデータを揃えれば)、
具体的に数字の形で白の権利がどれだけ強いかがすぐにわかります。
■二線のコスミ
計算を易しくするために、今まで例として使った図は実戦的なものでは
ありませんでした。この辺で実戦的な例を出します。
次の図は石田芳夫著『形勢判断とヨセ』のp.99の4図と6図です。
┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
┼┼○┼┼┼┼┼◆┼┼┼┤
┼┼┼┼┼┼┼○┼●┼┼┤
┼┼○╋┼┼┼┼○●┼┼┤
┼┼┼┼○┼┼┼○○●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼○●●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┤ 黒1◆
┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
┼┼○┼┼┼┼┼◇┼┼┼┤
┼┼┼┼┼┼┼○┼●┼┼┤
┼┼○╋┼┼┼┼○●┼┼┤
┼┼┼┼○┼┼┼○○●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼○●●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┤ 白1◇
黒◆に白が受けて黒が先手になった場合と
白◇に黒が受けて白が先手になった場合の差は6目です。
この図の黒◆と白◇は通常「両先手6目」に分類されます。
しかし、実戦でこれらの手が先手になるかどうかは、
残りの部分全体がどうなっているかに依存します。
打つタイミングによっては黒◆も白◇も後手になることがありえます。
以下ヨセの大きさを見合い計算で表わすことにします。
黒◆と白◇の後続手の大きさがそれぞれa目とb目としましょう。
残りの部分全体の温度はt度であるとします。
tがa未満なら黒◆は先手になり、tがb未満なら白◇は先手になります。
サーモグラフィーの横軸の原点を決めるために、
権利が同等だという仮定のもとでの(a≠bならこの仮定は正しくない)
目算結果は黒地-白地=0目になるものとしておきます。
このように原点を決めておくとグラフを描きやすくなります。
サーモグラフィーは次の形になります。
・
・
・
・
・
◎ t=(a+b+6)/2
● ○
t=a ● ○
/● ○
/ ● ○ t=b
/ ● ○\
/ ● ○ \
/ ● ○ \
/ ● ○ \
/ ● ○ \
/ ● ○ \
/ ● ○ \
←──┼──┼──┼──●──┼──○──┼──┼──┼──
a 3 0 -3 -b
この図ではa=10、b=8としてあります。
(大体こんなもの?正確な数字を出せる人はその数を代入して下さい。)
この数字のもとで黒◆と白◇の後手ヨセ換算の大きさ(温度)は
t=(10+8+6)/2=12と非常に大きくなります。
これは出入り24目の後手ヨセに相当するので非常に大きいと考えられます。
個人的にはヨセの教科書ではすべてのヨセの問題図について
サーモグラフィーが描かれてあって欲しいです。
サーモグラフィーを見れば後手ヨセ換算でのヨセの大きさがわかる。
サーモグラフィーを見ればどのタイミングで先手ヨセになるかがわかる。
単なる数字ではなく、グラフなので直観的に記憶し易い。
たとえば幅が狭く縦に細長いサーモグラフィーのヨセは出入りは小さいが
温度が高く急がれるヨセであることがわかる。
■参考文献
http://senseis.xmp.net/?DoubleSente
http://senseis.xmp.net/?DoubleSenteIsRelative
http://senseis.xmp.net/?EndgameReckoner
以上です。