ぴかぐりさんの日記

(Web全体に公開)

2009年
09月20日
18:18

囲碁の国際ルール - ワールドマインドスポーツゲームズ2008で採用されたルール

タグ : 囲碁のルール
ワールドマインドスポーツゲームズ 2008
(World Mind Sports Games (WMSG) 2008)
では囲碁のルールとして、実質的に池田敏雄囲碁ルール試案
「中国式III」が採用されていたようです。そしてそのルールのもとでは
中国式の「地と活石の数」による計算と
日本式の「地とアゲハマ」による計算が一致することも説明されています。

池田試案「中国式III」では通常の中国ルールと同様に得点が
「地(セキの目を含む)の目数」と「盤上の石の数」の和
で計算されます。「中国式III」の肝は最初に白がパスした場合には
白の得点に1目加算(もしくは黒の得点から1目減算)することです。
これによって通常の中国ルールの持つ以下の欠点が無くなります。

・通常の中国ルールではダメが偶数個になったときに自分の地に手入れしても損
 にならないので、終局直前のゲームの緊迫感が失われる合がある。
 (日本ルールにはこのような欠点がない。)

・「地」と「アゲハマ」による日本式計算法(「地」と「盤上の石の数」による
 計算法よりも実用的に優れている計算法)と結果が一致しない場合がある。

池田試案「中国式III」を採用すれば、日本ルールの長所を中国ルールに取り入
れることができるだけではなく、計算も「地」と「アゲハマ」で行なうことがで
きるようになります。

すでに前の日記で紹介したように、池田敏雄氏は「中国式III」に対応する日本
ルールの変種も提案しています。池田試案「日本式I」の肝は、対局両者が連続
してパスしたときに仮終局とし、死石の判定で合意できない場合にはそのまま打
ち続けて実戦的に解決することです。ただし、自分の地への損な着手の回数を公
平にするために仮終局後に白と黒が盤上に打つ石の数を等しくなるようにします
(不可能な場合にはパスに1目のペナルティを与えることによって処理する)。
たったこれだけのことで日本ルールでは曖昧な終局時の「手入れ問題」がすべて
解決してしまいます。(日本囲碁規約では死活を実戦的に解決できない場合が生じる。)

池田試案「日本式I」を採用すれば、中国ルールの長所(終局時の「手入れ問題」
がない)を日本ルールに取り入れることができるだけではなく、計算法が同値な
中国ルールの変種「中国式III」も手に入れることができます。

このように故池田敏雄氏による囲碁ルール試案「中国式III」、「日本式I」は大
変優れたものであり、日本の囲碁文化がこのような優れたルール試案を生み出し
たことは世界に誇って良いことだと思います。

具体的な WMSG 2008 での碁ルールの説明は
http://home.snafu.de/jasiek/WMSGrules.pdf (英文)
にあります。そのルールの解説が
http://home.snafu.de/jasiek/wmsgc.pdf
にあり、ルールの微妙な点の例による解説が
http://home.snafu.de/jasiek/wmsgs.pdf
にあります。

池田試案が国際大会でも採用されたことも、誇らしい話だと思います。

しかし良い話ばかりではありません。合理的な碁のルールに基づいて国際囲
碁大会を開くことを妨害する人たちが日本にいるからです。その名は日本棋院。
http://home.snafu.de/jasiek/wmsgc.pdf の最後の「将来 (Future)」に関する
節には「日本棋院 (Japanese Go Association)」が原因でルールの説明に無駄な
蛇足を大量に付け加えることになってしまったことが説明されています。
これは非常に残念なことだと思います。
ぃーね!

コメント

2009年
09月29日
06:54

 足跡ありがとうございました。

 いろいろ調べてくださってありがとうございました。
ルールの話では、置碁の場合はどうなるのか前から疑問に思っていました。「置き石の数-1」だけ、中国ルールと日本ルールが違うと思っています。だとすると、中国ルールはなんか変と感じます。

2009年
10月02日
04:18

はじめまして、smile_ace様。
古典棋譜の鑑賞、楽しませてもらっています。

中国ルールと日本ルールの比較の話は、
こちらではなく、別の日記の「囲碁の日本ルール試案」の
「中国式IIIと日本式Iの計算法の同値性の証明」の話ですね。

「地と活石」による中国式の計算と「地とハマ」による日本式の計算の
あいだには、地の定義を同じとするならば、

(中国式計算での黒の得点と白の得点の差)
=(日本式計算での黒の得点と白の得点の差)+(置石の数-1)+ε

という関係があるという話でした。
ここでεは手止まりを打ったのが黒なら1で白なら0です。

中国式では盤上に残った石(活石)の個数が点数に加算されるので、
中国式での置碁の黒は日本式よりも(置石の数-1)目だけ有利なのは
納得できる話だと思います。

中国式と日本式の計算法のあいだに優劣はありません。
なぜならば、上の式を使えば、
一方の計算結果を知ればもう一方の計算結果も知ることができるからです。
置き碁で中国式計算法を採用するときに、ハンディキャップを日本ルール
と同じ程度にしたければ、黒が置石の数-1に等しいコミを出さなければ
いけないとすれば良いわけです。
KGSでは実際にそのようになっていたはずです。

中国式と日本式では終局間際に注意しなければいけないことが違います。
それについても一長一短で優劣が付けられないと思います。

日本式計算法では、自分の地への無駄な手入れが損になるおかげで、
「手入れが必要か否か」を必死になって読みながら
最後まで緊張した勝負を続けられます。
通常の中国ルールでは、残った駄目の個数が偶数になれば、
自分の地に無駄な手入れをしても損になりません。

中国式計算法では駄目詰めも得点に加算されるので、
駄目を完全に詰め終わるまで緊張した勝負を楽しめます。
実際、中国ルールでは日本ルールでは不可能な方法で
最後の最後に得をできる場合があります。
通常の日本ルールでは駄目詰めは単なる終局手続きに過ぎません。

「どちらの方がゲームとして面白いか」という観点から
優劣は付けられないでしょう。

実は上の意味で、
通常の中国ルールの欠点を修正したものが「中国式III」で、
通常の日本ルールの欠点を修正したものが「日本式I」です。
「中国式III」では残った駄目の個数が偶数であっても
自分の地への無駄な手入れは1目の損になり、
「日本式I」では通常の日本ルールなら駄目詰めしか残って
いない局面であっても中国ルールと同じ方法で得できる場合があります。

「中国式III」は日本ルールに歩み寄った中国ルールであり、
「日本式I」は中国ルールに歩み寄った日本ルールとみなせます。
国際ルールの制定には歩み寄りの姿勢が最も重要だと思います。

2009年
10月02日
06:23

 ご説明ありがとうございました。ルールの大まかな違いについては理解していましたが、「(置石の数-1)+ε」ということについては(置石の数-1)についてはなんとなく自分なりに理解していたつもりですが、εについては初めて聞きました。
 中国式がなんとなく変だと感じるのは日本ルールありきということから発生する感情なのだから、偏った感情ですね。といっても、やはり日本式の方が美しいと感じます。地に石を入れることは、ある時点までは損なことで、ある時点から必須な手であるというのはどうも好きになれません。

 古典棋譜鑑賞室を見ていただいているとのこと、ありがとうございます。ぼつぼつ更新を再開しようと思っていたのですが、自治会の仕事が入って来たりして再開が遅れています。日本囲碁体系の全員をと思っているのですが・・・。

 古典棋譜関連で更新がストップというと、木石庵さんのサイトを思い出します。ご覧になったことがありますか。
 http://mignon.ddo.jp/index.htmlの預かりサイトとして登録されているのですが、2004年から更新がストップしていて、預かっている方にメールしたことがありました。長野県の川中島の近くで、メールでは詳しいことを知ることが出来ないので、一度訪問したいと思っていますが、これもなかなか出来ないでいます。古典棋譜のファンだから、ご興味があるかと、話が、とんでもないところに飛びました。!(^^)!

2009年
10月02日
20:26

補足:上の式の(置石-1)の部分は置石がない場合にはゼロになります。

(中国式計算での黒と白の得点の差)=(日本式計算での黒と白の得点の差)+ε
ここで最後のダメ詰めが黒ならε=1、白ならε=0です。

εの部分については間接的にすでに知っている話だと思います。
「コミ六目半の半目勝負では最後にダメを詰めた方が負け」
という話は実はほとんどεの話そのものです。

セキがないと仮定します。
中国式計算法での黒と白の得点の和は361になります。
だから中国式計算法で黒と白の得点の差は奇数になります。

最後のダメ詰めが黒ならば
日本式計算での黒と白の得点の差は偶数になります。
コミを入れて差が半目しかなければ、
盤面黒六目勝ち=黒半目負けでなければいけません。

最後のダメ詰めが白ならば
日本式計算での黒と白の得点の差は奇数になります。
コミを入れて差が半目しかなければ、
盤面黒七目勝ち=白半目負けでなければいけません。

棋譜作成
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