ぴかぐりさんの日記

(Web全体に公開)

2009年
09月22日
22:07

囲碁の日本ルール試案

タグ : 囲碁のルール
最近の日記(goxi内のみ公開)で
中国ルールおよび日本ルールを改良した池田敏雄囲碁ルール試案
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_menu.html
の「中国式III」「日本式I、II」について説明して来ました。この日記では
通常の日本ルールとの比較で「日本式I、II」について説明したいと思います。

「日本式II」を採用すれば、最初の対局停止で死活と地について合意できる場合
には(十分な棋力の持ち主どうしの対局ではほとんどの場合そうなる)、終局前に
必要な手入れの判定を除いて、日本の慣習的囲碁ルールとまったく同じ手続きで
終局手続きを行なうことができます。この意味で「日本式II」は現在の日本の慣
習的囲碁ルールの有力な代替案であると言えます。

「日本式I」はセキの目も地とみなすことを除けば「日本式II」と同じです。
「日本式I」を採用するメリットは中国ルールとの計算法の統一にあります。
中国ルールの一種である「中国式III」(ワールドマインドスポーツゲームズ2008
で採用されたルール)と日本ルールの一種である「日本式I」は計算法が同値にな
ります。だから「開催国がどこかによって「日本式I」か「中国式III」を採用する」
と国際ルールを決めることにはかなりの説得力を感じます。

■日本式I、IIの共通ルール

●対局停止および合意による終局までの流れ

通常の日本ルールと同様に対局を進める。
両対局者は交互に盤上に石を打つ(着手)か着手放棄(パス)を行なう。
着手禁止点に石を打ってはいけない。
コウをすぐに取り返してはいけない。

対局者双方のパスが連続したとき、対局を停止する。
対局停止直後に双方が石の死活と地の確認を行なう。
合意できたら、終局とし、盤上から死石と合意できたすべての石を
取り上げた後に、対局を終了する。
合意できないならば、対局を再開する。

補足:実用的には、対局停止に向けてのパスは
「終わりましたねと言って対局時計を押す」というような行為で
代用しても構わないということにしておいてもよいだろう。ただし
「終わりましたねと言って対局時計を押す」行為はパスと同値ということ
を強調しておかないと混乱を招く危険性がある。

《ここまでは通常の日本ルールとそう違わない。》
《両対局者が十分強ければほとんどの場合に対局は再開されないだろう。》
《池田試案「日本式I、II」で工夫されてるのは以下の部分です。》

●対局再開後のルール

原則として対局再開後に両対局者は同じ個数の石を盤上に打たなければいけない。

これによって対局再開後に両対局者は一方的に損をせずに
自分の地に手を入れることができる(重要なので後述)。
そのために以下のルールを追加しておく。

対局再開後にパスをした場合にはペナルティとして相手にアゲハマを1目渡す。
ただし、再度の対局停止直前のパスを対局再開後の先着者が行なった場合には
そのペナルティは免除される。

補足:気楽な細かいことを気にしない対局では
対局再開後に両対局者が同じ個数の石を盤上に打った後に、
「これで終わりにしてよいですよね」などと言い、
合意で対局停止にしても構わないということにしておいてもよいだろう。

《以下は両対局者が最後まで合意できない場合のルール》
《盤上が石で完全に埋まると両対局者はパスしかできなくなる。》
《そうなった場合にどうするか。》

●両対局者が最後まで合意できない場合の終局

対局再開直後に両対局者が再度連続してパスを行ない、
局面がまったく変化しなくなった場合には、それで終局とし、対局を終了する。
すなわち、パスが4回連続して行なわれた場合には終局とし、対局終了とする。

《ルールをこのように定めておけば必ず対局が終了する。》

●活石の定義

対局終了後に盤上に残っている石はすべて活石とみなされる。

補足:対局終了後(合意による終局の場合は死石と合意できたすべての石を取り
上げた後、最後まで合意できない場合にはパスが4回続いた後)に盤上に残ってい
る石はすべて活石とみなすというルールにしておけば、活石を石の形で定義する
必要が無くなる。超初心者どうしの対局では、死石をすべて取り上げたと両対局
者が思っていても上級者が見ればそうではない場合もあるだろう。たとえそうな
ったとしてもそれは両対局者の実力の結果なのであるから、どんなにひどい形で
あっても盤上に残っている石はすべて活石だということにして問題ない。こうい
うルールにしておけば初心者どうしの対局であっても上級者の助けを借りずに勝
敗を決めることができる。

■日本式I、IIの違い

「日本式I」と「日本式II」のルールの本質的な違いは地の定義です。

●日本式Iの地の定義

同じ色の活石だけで囲まれた領域を地と呼ぶ。

●日本式IIの地の定義

同じ色のセキ以外の活石だけで囲まれた領域を地と呼ぶ。
ただし、セキとはダメを持つ活石のことである。

《このセキの定義は日本囲碁規約に近い。
池田試案の定義とは異なりますが、こうした方が合理的でしょう。》

《注意:実は日本囲碁規約死活例24の解説も含めてセキの定義を日本囲碁規約と
正確に一致させるためにはかなり面倒な定義が必要になる。詳しくは
Robert Jasiek 氏の Japanese 2003 Rules の in-seki の定義を参照せよ。》
http://home.snafu.de/jasiek/j2003.html

要するに「日本式I」ではセキの目も地になり、「日本式II」ではならないと
いうことです。これにしたがい、対局終了後の得点計算方法も異なります。

●日本式Iの得点計算と勝敗の決定

地の目数から同色のアゲハマの個数を引いたものを双方の得点とし、
さらにコミを考慮して勝敗を決定する。
ただし、セキの目も地とみなされる。
(合意での終局の場合には一方ダメも地とみなす必要がある。後述)

これは、地がセキの目を含むことを除けば、通常の日本の慣習と一致しています。

●日本式IIの得点計算と勝敗の決定

地の目数から同色のアゲハマの個数と対局停止後に打たれたセキ石の個数を
引いたものを双方の得点とし、さらにコミを考慮して勝敗を決定する。
ただし、セキの目は地とみなされない。

日本式IIでは最初の対局停止の局面で終局となれば通常通り「地-アゲハマ」で
得点を計算できますが、対局停止後に合意できずに対局再開された場合にはその
後に打たれたセキ石の個数を双方の得点から引いておくことが必要になります。
対局停止後にたくさんのセキ石が打たれた場合には
これはかなり面倒な作業になってしまいます。

●日本式I、IIの長所と短所

日本式Iの短所1:通常の日本の慣習とは異なり、セキの目も地とみなされる。
日本式Iの短所2:それが原因で終局後の日本式整地を通常通り行なえない。
日本式Iの長所1:対局再開がなされた後も常に通常通りに得点計算できる。
日本式Iの長所2:ルールが単純で分かり易い。

日本式IIの長所:通常の日本の慣習通り、セキの目は地とみなされない。
日本式IIの短所:対局再開がなされた後の得点計算が面倒になる場合がある。

■コウ(劫)および同形反復禁止に関するルールをどうするべきか

もとの池田敏雄囲碁ルール試案では
「盤上への着手によって同一局面が再現されることは常に禁止」
となっています。ルールとしてはこれが最も単純であり、
可能ならばルールはこうしておくべきだと思います。

しかし、実際には同一局面再現を判定することが人間には難しい場合があり、
コウ以外の同一局面再現で即反則負けとするのは厳し過ぎるとするならば、
三劫、長生、循環劫などが発生した場合には無勝負もしくは引き分けとすると
いう妥協案も考えられると思います。

ただし「日本式I、II」では対局停止を経て対局再開した後に
何が起こるかについて十分な注意が必要になります。
特に注意しなければいけないことは「日本式I、II」では
パスをコウ立てに使うことを禁止しなければいけないことです。

■自殺着手禁止ルールをどうするべきか

もとの池田敏雄囲碁ルール試案でも通常の日本ルールでも「自殺着手(着手禁止
点への着手)は禁止」となっています。多数派は「自殺着手禁止」がルールにな
っているようです。

ニュージーランドルールなどでは「自殺着手も可」となっているので、必ずしも
「自殺着手は禁止」ということにする必要はないかもしれません。

■対局再開後に両対局者は同じ個数の石を盤上に打たなければいけない

両対局者の棋力が十分に高ければ、ほとんどの場合に、
最初のパスパスで対局停止になった局面で死活と地について合意でき、
それで終局となるはずです。
問題はそうならなかった場合にどうするかです。

たとえば、一方の対局者が対局停止の局面でコウ材有利であることを見越して、
「この隅の曲がり四目はセキで活きている。取れるものなら取ってみろ」と主張し、
対局再開となったとしましょう。

そのとき、もう一方の対局者は自分の地に手を入れてコウ材を無くしてから隅の
曲がり四目を取りに行かなければいけなくなります。自分の地に手を入れるたび
に1目の損になります。コウ材を無くすために必要な手入れの個数があまりに多
いならば、隅の曲がり四目を取れたとしても損になってしまいます。これでは、
隅の曲がり四目を取りに行けません。

しかし、「対局再開後に両対局者は同じ個数の石を盤上に打たなければいけない」
としておけば、一方の対局者がコウ材を無くすために自分の地に手を入れたとき
に、もう一方の対局者も同じ個数だけ自分の地に石を打たざるを得なくなります。
これによって対局再開後には双方が損をせずに自分の地に手を入れることが可能
になります。

これによって「手入れによって相手からのコウ材を無くせる場合には隅の曲がり
四目は死となる」という結論が実戦的に導かれることになります。

他のどんなに複雑で特殊な場合であってもこの方法ならば実戦的に石の死活をは
っきりさせることができます。

実際、現在の日本囲碁規約では対局再開後であっても自分の地に手を入れると相
手にパスをされてしまい一方的に損をしてしまう可能性が生じてしまいます。そ
のせいで日本囲碁規約では双方が死活について合意できない部分を実戦的に解決
することができなくなってしまっています。この点を改良したのが池田敏雄囲碁
ルール試案の「日本式I、II」であると考えて構わないでしょう。

《池田敏雄囲碁ルール試案は1968年に発表されているので、1989年に定められた
日本囲碁規約よりも古い。日本棋院は池田試案を参考にできたはずである。》

■手入れが必要か否かの判定は本因坊秀哉のそれに近くなる

喜多文子(名誉八段)の手記によれば、昭和初期に本因坊秀哉と久保松勝喜代
(名誉九段)のあいだで次局面での手入れに関して議論になりました。

**ABCDEFGHJ**
09┌┬○○●○┬┬┐09
08├○┼○●○┼○○08
07├┼○●●●○┼┤07
06○○●┼┼●●○○06
05●●●┼┼┼●●○05
04○○●●●●┼●●04
03├○○○○●●┼┤03
02○┼○●●┼┼●┤02
01└○◆┴●┴┴┴┘01
**ABCDEFGHJ**

黒◆と黒が半コウを取った局面です(アゲハマは白石1目、黒石0目)。
この局面でF2とD1に黒の手入れが必要かどうかについて
本因坊秀哉と久保松勝喜代のあいだで議論になりました。

本因坊秀哉:手入れは必要ない。
久保松勝喜代:手入れは必要である。

現在の日本囲碁規約では本因坊秀哉の判定は否定されてしまいます。
それでは上で説明したルールではどうなるのか。

上の局面で白にはコウを取り返す以外に損をせずに打てる場所がありません。
しかしコウをすぐに取り返すのは反則ですから、白はパスするしかありません。
それに対して黒パスとなり、対局停止となります。
黒はC1は活石であり、F2とD1への手入れは必要ないと主張し、
白がそれに同意できなければ、対局再開となります。

対局停止前の最後のパスは黒だったので、そのまま白番で対局が再開されます。
しかし、白D1は反則なので(パスはコウ立てにならない)、
白は再度パス以外に損をせずにすみそうな手が見当たりません。
ところが対局再開後のパスは1目のペナルティが科されます。
したがって白はコウ争いに備えて自分の地に手を入れることになるでしょう。
それに対して黒F2ツギ。
そこで白D1と半コウを取ってもコウは黒有利なので結局取り返されてしまいます。
だからここで白はいさぎよく、パスをして1目のペナルティを甘受するか、
自分の地に手を入れるしかないでしょう。
コウを争ってもいたずらに対局を長引かせるだけです。
そして、黒D1ツギとなり、終局となります。

対局停止までの手順:白パス、黒パス
対局再開後の手順:白B7手入れ、黒F2、白B9手入れ、黒D1、終局

**ABCDEFGHJ**
09┌3○○●○┬┬┐09
08├○┼○●○┼○○08
07├1○●●●○┼┤07
06○○●┼┼●●○○06
05●●●┼┼┼●●○05
04○○●●●●┼●●04
03├○○○○●●┼┤03
02○┼○●●2┼●┤02
01└○●4●┴┴┴┘01
**ABCDEFGHJ**

終局図は次の通り。

**ABCDEFGHJ**
09┌○○○●○┬┬┐09
08├○┼○●○┼○○08
07├○○●●●○┼┤07
06○○●┼┼●●○○06
05●●●┼┼┼●●○05
04○○●●●●┼●●04
03├○○○○●●┼┤03
02○┼○●●●┼●┤02
01└○●●●┴┴┴┘01
**ABCDEFGHJ**

黒がD1とF2に手を入れているあいだに、白も2目自分の地に手を入れているので、
黒2目勝ちということになります。これは上の局面でC1を活石とみなし、
D1とF2も黒地とみなした場合の結果と同じです。

このようにコウが十分有利であれば半コウをつがずに活石とみなして終局にでき
ます。これは現在の日本囲碁規約による判定とは異なります。

上で述べたルールでは最後に半コウを仕掛けて勝てば、活石を増やして、
地=活石で囲まれた領域を増やすことができます。つまり、上のルールでは厚く
打っていた側は最後にボーナスを受け取れる可能性が日本囲碁規約より少し高く
なるわけです。そしてそのような判定は本因坊秀哉によって支持されていたと。

■池田試案「日本式I、II」と日本囲碁規約の本質的な相違点

(1) 「日本式I」では日本囲碁規約と異なりセキの目も地とみなされる。(実際に
は「日本式I」では合意による終局時に一方ダメも地とみなさなければいけなく
なる。) 「日本式II」と日本囲碁規約の地の定義は等しい。 (しかし「日本式II」
では対局再開があった場合の計算が面倒になる場合が出て来る。)

(2) 「日本式I、II」と日本囲碁規約では終局前に必要な手入れが異なる。
手入れが必要か否かの判定は、「日本式I、II」では本因坊秀哉のそれに近くな
り、日本囲碁規約では久保松勝喜代のそれに近くなる。

(3) 「日本式I、II」では、対局の終了後(合意で終局した場合には死石と合意さ
れたすべての石を盤上から取り上げた後、最後まで合意できなかった場合にはパ
スが4回続いた後)に盤上に残っているすべての石を活石とみなす。よって「日本
式I、II」では石の死活を正確に読む能力が無くても勝敗の判定を正しく行なう
ことが可能である。それに対して日本囲碁規約では対局停止後の死活の判定には
読みの能力が必要とされ、初心者には正しく勝敗を判定することが不可能である。

(4) 「日本式I、II」では対局の停止後の死活と地の確認で両対局者が合意でき
なければ対局を再開して実戦的かつ合理的に解決できるが、日本囲碁規約では不
可能である。

個人的には(4)は日本囲碁規約の大きな欠点だと思います。
さらに普及という観点から(3)も日本囲碁規約の欠点とみなせると思います。

地の定義の相違(1)は「日本式II」を採用すれば無くなります。「日本式II」は
日本の慣習的ルール(ただし手入れ判定は日本囲碁規約よりも本因坊秀哉に近く
なる)を非常にうまく正当化していると思います。

「日本式I、II」の利点(3)(4)を保ったまま、手入れ判定を日本囲碁規約に近づ
けることができるかという問題は考えられます。もしも可能ならば(2)の相違を
(ほとんど)無くすことができるかもしれません。

しかし日本囲碁規約における対局停止後の死活判定は部分的な形だけに決まって
しまいます。日本囲碁規約では対局停止後の死活判定のための仮想手順ではコウ
をパスするまで取り返せず、コウ材を利用したコウの取り返しが禁止されていま
す。だから他の場所のコウ材の有無を気にせずに部分的に死活を判定できます。
死活を実戦的に解決したいという立場ではどうしてもコウがらみの死活判定は全
局的な問題になってしまいます。だから、死活を実戦的に解決できるようにする
ことと、日本囲碁規約の死活判定に近づけることは両立できないものと考えられ
ます。

したがって現在の日本囲碁規約を死活を実戦的に解決できるように改正するため
には(2)の相違点が最大の問題になると思われます。

■将来の国際ルールについて

http://www.tygem.com/news/jnews/view.asp?seq=12&pagec...
によれば、2005年7月6、7日に日本の池袋で開催された国際囲碁シンポジウムで
現在の日本囲碁規約を定めた中心人物である酒井猛九段は
「死活を判断する場合は部分的な問題として判断するべきだ」
と発言したようです。どうしてそうする「べき」なのか理由はわからないのです
が、日本棋院側の人間がこのように強く主張し続ける限り、死活を実戦的に解決
できるように日本囲碁規約を改正することは難しいでしょう。

個人的に囲碁のゲームとしての面白さの一つは
「コウ争いで部分的な戦いが一挙に全局的な大戦争に発展する場合があること」
だと思っているので、死活判定の場面においてもそういう全局的な大変化が
起こる方が好ましいと思います。どうして死活判定は部分的な問題とするべきな
のか、私には理解できません。

上で触れた本因坊秀哉の判定も部分的な問題にしてしまうと容易にくつがえって
しまいます。本因坊秀哉の判定は厚く打ってコウに強い状態で終局にできれば思
わぬボーナスが得られるというもので十分に納得できるものだと思います。死活
判定を部分的な問題にしてしまうと、厚く打っても報われません。厚く打った努
力が報われるのは本因坊秀哉の判定の方です。

さらに「合理性」の観点を離れて「日本の伝統」を重視してみたとしても、現在
の日本囲碁規約の判定と本因坊秀哉の判定では後者の方が重く扱われるべきだと
考えることは十分自然だと思われます。

さて、日本と同じく地とアゲハマで数えるルールを採用している韓国代表は
同国際囲碁シンポジウムでどのような立場だったのでしょうか。
http://www.tygem.com/news/jnews/view.asp?seq=13&pagec...
によれば

>韓国代表として参加した明智大囲碁学部教授、鄭秀賢九段は「中国ルールと応
>氏ルールはとても合理的だ。他方で日本ルールは便利でやさしく楽しむことが
>できるという長所がある。利便性と合理性を適度に折衷して統一ルールを作る
>ことができれば良いが、お互いの文化的違いがあるから現時点では妥協点を見
>出し難い。現実的な解決策を模索しなければならない。」

と柔軟な立場を表明しています。日本代表とは大違いだと思います。

この日記で説明した「日本式I」の地とアゲハマによる得点計算方法は実は、
ワールドマインドスポーツゲームズ2008(WMSG2008)で採用された「中国式III」
と同値になっています。この同値性は注目に値します。

開催国によって「日本式I」と「中国式III」のどちらかを採用することにすれば、
地とアゲハマで計算するルールを採用している国も地と盤上の石で計算するルー
ルを採用している国もどちらも満足できるのではないでしょうか?

そのための最大の障害は「日本式I」と日本囲碁規約の違いに対して日本棋院側
が強硬な反対姿勢を取ると予想されることです。

「日本棋院の立場で考えると、統一ルールとして中国ルール、応氏ルールを採用
した場合スポンサーに与える影響が大き」いという問題もあるようですが、
開催国によって「日本式I」と「中国式III」のどちらかを採用することにすれば、

・「中国式III」による計算法は地とアゲハマで計算する「日本式I」と同値。
・「日本式I」や「中国式III」は最初日本人の池田敏雄氏によって提案された。
・「日本式I」による終局前の手入れ問題の解決は本因坊秀哉の判定に近くなる。
・開催国が日本ならば「日本式I」が国際ルールとして使用される。

などの事情を正しく説明すれば「日本の伝統としての囲碁」を重視する
スポンサーも十分に納得できるのではないでしょうか?

池田敏雄による囲碁ルール試案は1968年に発表され、そのときに「日本式I」と
「中国式III」の同値性が指摘されています。このように日本では1968年の時点
で日本ルールと中国ルールの計算法の統一に成功していました。しかし、その後、
この池田試案は日本棋院からは完全に無視されてしまったようです。

■セキの目も地とみなすことについて

池田試案における日本ルールの合理的な正当化の肝はパスパスで対局停止になり、
死活と地の確認で合意できないとき、

  対局再開後に両対局者は同じ個数の石を盤上に打たなければいけない

とすることです。対局再開後の着手は実質的に死活と地の確認のための着手とい
うことになります。確認時に一方だけが余計に自分の地に手を入れるという不公
平を無くすために、両対局者が同じ個数の石を盤上に打たなければいけないとす
るのです。これによって死活を実戦的に解決することが可能になります。

このとき、勝敗の決着を通常の日本ルールのように対局停止後に
「地の目数から同色のアゲハマの個数を引いたもの」
で単純につけようとすると、セキの目も地とみなす必要があります。

以下の例を見て下さい。

**ABCDEFGHJ**
09┌○○┬●○●┬┐09
08●┼○┼●○●┼●08
07●●●●●○●┼┤07
06○○○●○○●┼┤06
05├○●○┼○●┼┤05
04○○●○┼○●●●04
03├○●○○○○○●03
02○●●●●●○┼○02
01└○┴●┴●○┴┘01
**ABCDEFGHJ**

両対局者がこの局面で黒パス、白パスとなり、対局停止になった。
白はセキの目のA1、A3だけではなく、一方ダメのB8、D1も白地だと主張しました。
黒はそれに合意できませんでした。対局再開になりました。
対局再開後に両対局者は同じ個数の石を盤上に置かなけばいけません。
その結果、次の手順で終局となりました。

**ABCDEFGHJ**
09┌○○8●○●┬┐09
08●6○┼●○●1●08
07●●●●●○●┼307
06○○○●○○●┼506
05├○●○┼○●┼705
04○○●○┼○●●●04
032○●○○○○○●03
02○●●●●●○┼○02
014○┴●┴●○┴┘01
**ABCDEFGHJ**

奇数番号の着手は黒で偶数番号の着手は白です。終局図は次の通り。

*ABCDEFGHJ**
09┌○○○●○●┬┐09
08●○○┼●○●●●08
07●●●●●○●┼●07
06○○○●○○●┼●06
05├○●○┼○●┼●05
04○○●○┼○●●●04
03○○●○○○○○●03
02○●●●●●○┼○02
01○○┴●┴●○┴┘01
**ABCDEFGHJ**

最初の対局停止の局面は通常の日本ルールならば黒の4目勝ちになります。
しかし、対局再開後に白には損をせずに打てる点が4つもあります。
セキの目が2つ、セキの一方ダメが2つ。
対局停止後は同じ個数の石を盤上に打たなければいけないので、
白が損をせずに打てる点に石を打っているあいだに、
黒は自分の地に石を打つ損な手を打ち続けなければいけません。
これによって4目差がつまって、結果は持碁になります。
対局停止直後の局面で合意によって終局とするためには、
黒は白2、4、6、8の点を白地とみなすことに同意しなければいけません。

中国ルールではセキの目や一方ダメが得点になります。
「日本式I」の得点計算法が中国ルールの一種である「中国式III」と同値になる
ので、「日本式I」が中国ルールに似た性質を持つのは当然のことでしょう。

私は個人的にセキの目や一方ダメの個数も得点になることは十分合理的だと考え
ています。しかし、日本の一般的ルールに慣れている人は大きな違和感を感じる
でしょう。

しかし、セキの目や一方ダメを地とみなすことがどうしても嫌な人には
「日本式II」を使うという選択肢があります。「日本式II」では対局再開後に打
った白のセキ石の個数4目が白の得点から引かれるので、通常の日本ルールと同
じく黒の4目勝ちとなります。

「日本式II」では対局再開後に打たれたセキ石の個数を双方の得点から引いて勝
敗を決めなければいけません。これは場合によっては面倒な作業になるでしょう
が、そうなる場合はまれでしょう。日本の囲碁の美徳のひとつである「勝負に関
係しない無駄な着手は極力しないようにする」を両対局者が守れば、対局再開後
に打たれたセキ石の個数はほとんどの場合にゼロ個になるものと思われます。

中国式と日本式の複数のルールを提案している池田敏雄囲碁ルール試案は本当に
よく練られていると思います。

■日本式Iでの整地

「日本式I」では、セキの目だけではなく、一方ダメ(一方だけが打つ権利のある
ダメのこと、たとえば上の図の白6、8は白の一方ダメ)も地とみなさなければい
けません。これが原因で合意での終局後に通常の日本式の整地ができなくなる場
合が出て来てしまいます。セキの目を地とみなすことは通常の整地手続きでも易
しいですが、一方ダメの扱いは難しいと思います。

「日本式I」の勝敗の判定を通常の日本式の整地で行ないたい場合には、上の終
局図のような状態まで双方が自分の地に手を入れてからにするという習慣にすれ
ば良いと思います。

■中国式IIIの簡単な紹介

中国ルールの一種である池田試案「中国式III」について簡単に紹介しましょう。

「対局停止および合意による終局までの流れ」は「日本式I、II」と同じです。

「対局再開後のルール」は「日本式I、II」と違って対局再開前と変わりません。
中国ルールでは手止まりをどちらかが打った後は自分の地に手入れすることが損
にならないので「日本式I、II」のように対局再開後に同じ個数の石を盤上に打
つという取り決めはいらなくなります。

「両対局者が最後まで合意できない場合の終局」は「日本式I、II」と同じです。

「活石」の定義も「日本式I、II」と同じです。

「地の定義」は「日本式I」と同じで、セキの目も地とみなします。

「中国式III」の得点計算と勝敗の決定は次のようにして行ないます。
地の目数と盤上にある同色の石の個数の和を双方の得点とする。
ただし最初のパスを後手番(白番)の対局者が行なった場合には白の得点に
1目加算する(同じことだが黒の得点から1目減算するとしてもよい)。

最初のパスを白と黒のどちらが行なうかで出入りで1目の差が出るのが
「中国式III」で工夫されているところです。

これによって通常の中国ルールの以下の欠点が無くなります。

(a) ダメの個数が偶数個のときに自分の地に手入れしても1目も損をせずにすむ。
そのせいで終局直前のゲームの緊迫感が薄れてしまうことがある。

(b) 計算法が実用的により便利な地とアゲハマによる日本式の計算法と同値にな
らない。

十分に合理的な対局者は最初のパスをその直前に相手が手止まりを
打ったときに行なうはずです。だから白がパスした場合には黒が手止まりを
打ったと考えられ、手止まりまでに黒は白よりも1目多く石を盤上に打ったこと
になります。それが原因で手止まりを打った時点で中国式と日本式で得点を
計算すると中国式では黒が1目得をしてしまうことになります。そのことの証明
にはちょっとした算数が必要なので興味がある人はあとの説明を読んで下さい。
その黒の1目得をキャンセルさせるために白の得点にも1目加算することに
するのです。それによって「中国式III」と「日本式I」の計算法は同値に
なります。

ワールドマインドスポーツゲームズ2008(WMSG2008、北京開催)では
「中国式III」が正式ルールとして採用されました。詳しくは
http://home.snafu.de/jasiek/rules.html の Ikeda Scoring の節にある
文書を読んで下さい。

中国ルールを採用している国の代表者が中国ルールに最初のパスに関するルール
を付け加えることを許容したことは注目に値します。そのルール修正は上の計算
結果から日本ルールへの歩み寄りだとみなすことができるからです。

それではWMSG2008で採用する囲碁ルールについての話し合いで日本棋院側はどの
ように反応したでしょうか。その様子は次の文書の最後の方を見ればわかります。
http://home.snafu.de/jasiek/wmsgc.pdf
日本棋院側の人間は中国ルールからの歩み寄りの姿勢を無視して、かたくなな姿
勢を見せていたことが想像されます。

日本側も中国ルールに歩み寄って、日本ルールを採用している国でWMSGを開催す
る場合には「中国式III」と計算法が同値な「日本式I」を採用することにして欲
しいと要求するべきだったと思います。

WMSG2008で採用された「中国式III」ルールは1968年に池田敏雄氏によって提案
されました。池田敏雄氏は呉清源九段、林海峰九段、宮本直毅八段(当時)らの
協力を受け、日本ルールだけではなく、中国ルールについてもよく調べ、
「中国式I、II、III」「日本式I、II」の五つのルールを提案しています。
そして「中国式III」と「日本式I」の計算の同値性とそれらのルールの合理性
を強調しています。1968年の時点でこのような素晴らしい囲碁ルール研究が
日本では発表されていたのです。

ちなみに富士通の公式サイトにある池田記念展示室思い出の品のページ
http://jp.fujitsu.com/museum/ikeda/exhibition/memento.htm... には
「生涯の趣味となった囲碁では、日本式ルールの予盾点を指摘し、日本や台湾を
参考にした新しいルールを考案し、論文としてまとめてあります。
これらは日本棋院にて認められ、現在公式ルールとなっています。」
とありますが、これは誤りです。事実は
「これらを日本棋院は無視するだけではなく、
公式国際ルールとして採用されることを邪魔した」です。
この事実を富士通側が知ったらどう感じるでしょうか。
cf. http://210.155.158.203/kisei.yomi/column/okame_narita/03....

■中国式IIIと日本式Iの計算法の同値性の証明

勝敗に影響を与えるのは黒と白の得点の差なので
まず通常の中国ルールと日本式Iにおける得点の差を計算してみましょう。

(通常の中国ルールにおける得点の差)
=(黒地+盤上に残った黒石の数)-(白地+盤上に残った黒石の数)

(日本式Iにおける得点の差)
=(黒地-取られた黒石の数)-(白地-取られた白石の数)

したがって、これらの差(差の差)を取ると、
黒地と白地の項がキャンセルして

(通常の中国ルールにおける得点の差)-(日本式Iにおける得点の差)
=(残った黒石の数+取られた黒石の数)-(残った白石の数+取られた白石の数)
=(置き石の数+盤上に打たれた黒石の数)-(盤上に打たれた白石の数)

となります。だから、中国ルールによる計算の結果を「日本式I」に一致させる
ためには、それらの差である

(置き石の数+盤上に打たれた黒石の数)-(盤上に打たれた白石の数)

を中国ルールにおける白の得点に加算しなければいけません。

置き石がない場合には、手止まりを黒が打ったとき白の得点に1目加算し、
手止まりを白が打ったときは何もしない、とすれば中国ルールによる
計算結果と「日本式I」による計算結果を一致させることができます。
これは「中国式III」と「日本式I」の計算法の同値性を意味しています。

置き石がある場合には、最初から白の得点に「置き石の数-1目」を加算して
おき、手止まりを黒が打ったとき白の得点にさらに1目加算し、
手止まりを白が打ったときはさらに何もしない、とすれば中国ルールによる
計算結果と「日本式I」による計算結果を一致させることができます。

■日本ルールと中国ルールのコミを比較する場合の注意

日本ルールにおけるコミの影響と、中国ルールにおけるコミの影響を
比較するときには注意が必要だということがわかります。
なぜならば、前節の計算からわかるように、中国ルールでは日本ルールと
比較して黒が手止まりを打って1目得をしてしまう場合があるからです。

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■追記2009年9月30日 貝瀬漸進案

1962年に貝瀬尊明による日本囲碁基本規則案草案(漸進案)要綱が発表されてい
ます。その全文を次の場所で読めます。
http://park6.wakwak.com/~igo/igorule/zansin.html

貝瀬漸進案では、死石がすべて打ち上げられ、盤上の石がすべて活石であり、
地も完全に確定された状態である「理論上の終局」とそこまでに必要な無駄
な手数を省略した「合意による終局」を明確に区別しています。

貝瀬漸進案では「合意による終局」は「理論上の終局」までに必要な無駄な
手数を省略しただけの局面に過ぎず、盤上の石の死活は「理論上の終局」で
盤上に残っているかどうかで判定されなければいけません。

問題は地とアゲハマで計算するルールでは自分の地にある死石を打ち上げる
ことは損な手になってしまうことです。だから、すべての死石を打ち上げた
「理論的な局面」まで打ち進めると一方の対局者が損をしてしまうかもしれ
ません。

この問題を解決するために、貝瀬漸進案でが「非交互着手賃」を導入してい
ます。関連部分を引用しましょう。

> 前項の石の打ち上げの実行は、劫立ての外はセキの中の空点に着手するこ
>とを得ないものとして、打ち上げる側の対局者の着手により開始し、対局者
>が交互に着手しない場合の非交互着手は「非交互着手賃」の仮り払いにより
>計算するものとする。

>「無条件死石」の打ち上げ実行の手順を進めたことが判明した場合には、双
>方の着手または「非交互着手賃」の支払いの回数を等しくし(交互着手地目
>相殺の原則)、「無条件死石」でなことが判明した場合には、「非交互着手
>賃」の仮り払いは無効とするものとする。

>「非交互着手賃」は「無条件死石」の打ち上げ実行の手順を進めたことが判
>明した場合に、この手順を進めたことが「そのまま取り上げた場合」に比較
>して不利益にならないようにするため、一方の対局者が相手方に支払う石
>(出しハマ)である。

要するに、死活の確認のために石を打ち上げようとするとき一方が損をする
ことを防ぐために、パスにペナルティを設けるということです。

このアイデアは上の日記で詳しく説明したように、1968年発表の池田敏雄囲
碁ルール試案「日本式I、II」でも採用されています。ある意味で池田試案
「日本式I、II」は貝瀬漸進案を論理的に明確にしたものと考えることもで
きるでしょう。

現在においても「地とアゲハマで計算する日本式のルールは終局手続きが曖
昧であり、問題があるので国際ルールとして不向きである。国際ルールは中
国ルールをベースにした方が良い」と主張する人がいますが、そのような
主張は誤りです。

すでに1968年に池田試案が発表されているし、池田試案「日本式I、II」の
基本的なアイデアは1962年に貝瀬漸進案として発表されています。
「地とアゲハマで計算する日本式ルールで終局手続きが明確なもの」は
1960年代にすでに提案されていました。

現在の日本囲碁規約(1989)の国際ルールとしての採用は論外だし、
その修正版も複雑すぎて国際ルールとしては不向きでしょう。
日本囲碁規約およびその修正版にこだわり続けると、
国際ルールが中国式ルールとして固定されてしまうかもしれません。
果たしてそうなったとき日本の囲碁ファンは嬉しいでしょうか?
1960年代に国際ルールとして十分に使える日本式ルールが提案されていた
ことを日本の囲碁ファンは無視するべきではないと思います。

以上です。

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■追記2009年9月30日 「日本式III」と米国ルール

「中国式III」は「日本式I」と計算結果が同値になるように
修正された中国式ルール「中国式II」です。

それでは逆に、「中国式II」と計算結果が同値になるように
修正された日本式ルール「日本式I」は可能でしょうか?
そのようなルールのことを「日本式III」と呼ぶことにしましょう。

答は次の場所に書いてあります。
http://gobase.org/studying/rules/ikeda/?sec=e_rules

「日本式III」の主要部分は「日本式I、II」と同じですが、
「日本式III」ではすべてのパスに1目のペナルティを科す点が違います。

・パスをした場合にはペナルティとして相手にアゲハマを1目渡す。

ただし、黒と白双方が同じだけの個数の石を盤上に打って終わりにするために、
次のルールも加えておきます。

・終局直前の黒によるパスのペナルティを免除する。

パスパスで対局停止とし、死活と地について合意できたら終局とし、
対局再開直後のパスパス(パスの4連続パス)で終局とすることは
「日本式I、II」と同じです。
ただし「対局再開後のルール」は「日本式I、II」と違って
対局再開前と変わりません。
得点の計算の仕方は「日本式I」にしたがいます。

対局者が十分合理的であれば最初のパスは相手が手止まりを打った直後にな
されるはずです。そしてパスが連続することで対局の停止となるわけです。
最初にパスをしたのが白ならば「日本式I」と比較して白の得点は1目下がります
最初にパスをしたのが白ならば「日本式I」と両者の得点は同じになります。
このことから、上で定めた「日本式III」の得点の計算結果は「中国式I」に
等しくなることがわかります。

米国ルール (AGA Rules、American Go Association のルール)は
この「日本式III」に非常に似ています(ほとんど同じと考えて良い)。
このルールでは地とアゲハマで計算しても地と盤上の石で計算しても
結果が同じになります。

以上です。

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■付録2009年10月5日 6種類の池田敏雄囲碁ルール試案

池田敏雄氏は「中国式I」から「日本式II」までの5種類の囲碁ルールを提案
しました。さらにその英訳では「日本式III」が付け加えられています。
http://tmkc.pgq.jp/igo/j_menu.html (オリジナル日本語版)
http://gobase.org/studying/rules/ikeda/ (英訳)

1. 中国式I (英訳の Area Rules I)

これは純碁のこと。
http://park6.wakwak.com/~igo/golax/jungo/ohmei.html

実績:日本では王銘エン九段によって有名になった。

2. 中国式II (英訳の Area Rules II)

これはほとんど通常の中国ルール。
得点を「地の目数+活石の個数」で計算する。

日本ルールにはない欠点:
・自分の地に無駄に手を入れても1目の損にならない。
 この点において中国ルールは「ぬるい」。
・セキがないとき、黒と白の得点差は常に奇数(盤面持碁にならない)。

実績:中国の公式ルールはこのルールにほとんど等しい。

3. 中国式III (英訳の Area Rules III)

最初にパスしたのが白番なら白の得点に1目追加する(もしくはそれに同値
な任意の得点計算方式でも良い)というルールを付け加えた中国ルール。
得点計算法が次の日本式Iと同値になる。

中国式IIよりも優れている点:
・自分の地に無駄に手を入れると1目の損になる。
・セキがなくても、黒と白の得点差は偶数にも奇数にも成り得る。
・日本式Iと計算法が同値である。

実績:ワールドマインドスポーツゲームズ2008で採用された。

4. 日本式I (英訳の Territory Rules I)

得点を「地の目数-同色のアゲハマの個数」で計算する。
セキの目は地とみなされる。
パスパスによる対局停止があったとき、
対局再開から終局までに両対局者が盤上への着手を同じ回数
行なうようにするためのルールが追加されている。
対局停止後に死活で合意できなくても
そのまま対局を再開して決着を付けることができる。

中国ルールにはない通常の日本ルール(たとえば日本囲碁規約1989)の欠点:
・最終盤でコウに弱くても中国ルールよりも損をする確率が低い。
 この点において日本ルールは「ぬるい」。
・対局停止局面における死活で両対局者が合意できないとき、
 対局再開によって合理的に決着を付けることが不可能である。

日本式Iが通常の日本ルールよりも優れている点:
・上に挙げた通常の日本ルールの欠点がすべて解消されている。
・中国式IIIと計算法が同値である。

実績:無し。

5. 日本式II (英訳の Territory Rules II)

日本式Iをセキの目を地とみなさないように修正したルール。
セキの目を地とみなさない点以外は日本式Iと完全に同じ。

日本式IIが通常の日本ルールよりも優れている点:
・上に挙げた通常の日本ルールの欠点がすべて解消されている。

実績:無し。

6. 日本式III (英訳の Territory Rules III)

得点を「地の目数-同色のアゲハマの個数」で計算する。
セキの目は地とみなされる。
対局開始から終局までに両対局者が盤上への着手を同じ回数
行なうようにするためのルールが追加されている。
このルールは本質的に中国式IIと同値である。

利点:
・上に挙げた通常の日本ルールの欠点がすべて解消されている。
・本質的に中国式IIと同値である。

欠点:
・中国式IIの欠点がそのまま成立してしまう。

実績:米国 AGA ルールはこのルールにほとんど等しい。

以上です。
ぃーね!
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