カウンターの中央にいた3人連れは60歳前くらいの女性2名と男性1名。いったいどういう素性の人たちなんだろう。身なりはまずまずで、にぎやかに話をしている。もうだいぶ出来上がって、帰るといってタクシーを頼んだが、ものの数分で若旦那が厨房のほうから出てきて、
「タクシーが来てもうた。」
といって玄関の引き戸を開けた。
親爺はカウンターの皿やジョッキなどを指でさしながら数えるふりをして、
「三千円。」
といった。しばらくして奥の方のお一人が勘定を頼むと千円だった。これはいったい、、、。タクシーの運ちゃんが言っていた、
「勘定はどっちかというといい加減。」
とはこのことなのか。
注文した「えびじゃこ」が出てきた。大振りなのが五尾。これはいい。熊本の「銀杏」で15年余前に食べたのと同じだな。でも、大きいので殻が立派過ぎてとげとげしているし、どうやって食べたらいいか触りながら思案していると、親爺が、
「尻尾のところに切れ目をいれてるから、こうやってはがすんや。面倒だけど、身が詰まっていてうまいで。」
そういって殻をはがして見せてくれた。「銀杏」ではきっと殻をはがして客にだしていたのだ。見よう見まねで自分でもはがしていると、
「この腕のところも身が詰まっててうまいから食べたらいい。」
という。身の量としてはとるに足りないけれど、殻ごと齧ると濃いうまみが確かにある。こどもの頃に山菜取りのついでに山で採ってきてから揚げにしてもらった沢蟹を思い出しながらゆっくり味わっていると、また親爺が巡回してきてもう一尾剥いてくれた。五尾のなかで一尾だけオレンジ色の卵が詰まっている。親爺はそれを指して、
「この卵がまたうまいんや。」
たしかに、食感はほくほくで、カニの卵なんかより味が濃い。あんまりうまいのでひととおり食べ終わってから、皿の上の殻を再点検して、まだ身がついているのを探して食べたものだ。親爺が云うには、鮨屋で出てくるのは韓国産で、出荷前に茹でて殻もとったものなのだとか。一月家で出すのは地元産だとのこと。